マウス肝炎ウイルス

マウス肝炎ウイルス（Mouse hepatitis virus: MHV）は、コロナウイルス科コロナウイルス属に分類されるウイルスの一種です。特に実験室で飼育されているマウスのコロニーにおいて、高い死亡率と感染力を示す疾病を引き起こすことで知られています。MHVは、その発見当初から、ウイルスの構造や複製メカニズム、宿主との相互作用に関する研究において重要なモデルとして用いられてきました。

SARSコロナウイルス（SARS-CoV）が発見される以前は、マウス肝炎ウイルスは生体内（in vivo）、試験管内（in vitro）、そして分子レベルの研究において、最も詳細に研究されていたコロナウイルスの一つでした。その理由は、MHVが培養細胞で容易に増殖し、遺伝子操作も比較的容易であったため、コロナウイルスの研究に非常に適していたからです。これらの研究を通じて、コロナウイルスの複製サイクル、遺伝子発現、病原性など、多くの重要な知見が得られました。

また、マウス肝炎ウイルスのいくつかの株は、多発性硬化症のモデルマウスにおいて、進行性の脱髄性脳炎を引き起こすことが知られています。この特性は、ヒトの多発性硬化症の病態解明や治療法開発のための研究に貢献しています。

近年、動物の疾病や人獣共通感染症に関心が高まる中、ウイルス学者は動物のコロナウイルスの病原性の解明に焦点を当てた研究に力を入れています。MHVはその研究において、重要な役割を担っており、動物におけるコロナウイルス感染症の理解を深める上で不可欠な存在となっています。MHVの研究は、動物だけでなくヒトのコロナウイルス感染症の予防や治療法の開発にもつながる可能性を秘めています。

参考文献として、University of Illinoisが提供している資料が挙げられます（PDF形式）。この資料には、MHVのより詳細な情報が記載されており、研究者はもちろん、一般の方にも理解しやすい内容となっています。

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