マウリキウス

マウリキウス（Flavius Mauricius Tiberius Augustus）は、539年に生まれ、602年11月27日に亡くなった東ローマ帝国の皇帝です。ユスティニアヌス王朝の第5代にして最後の皇帝であり、在位期間は582年から602年までの20年間でした。これは、ユスティニアヌス王朝において、ユスティニアヌス1世の38年に次いで2番目に長い在位期間です。

彼は、外交と内政の両面で優れた手腕を発揮しましたが、ユスティニアヌス1世時代の領土拡大に起因する財政難に苦しめられました。その財政問題への対処を誤ったことが、軍の反乱を招き、最終的に非業の死を遂げることになります。

生涯

誕生と家族、即位

539年、元老院議員パウルスの長男として誕生しました。妹にテオクティスタ、ゴルディア、弟にペトルスがいます。また、ダミアナという姉妹がいたという説もあります。親族にはドミティアヌスという人物がおり、彼は580年頃にメリテネの大司教となりましたが、マウリキウスの甥であるという説が有力です。

マウリキウスは、先帝ティベリウス2世の娘コンスタンティナの夫でした。ティベリウス2世に男児がいなかったため、582年に義父の死によって皇帝に即位しました。そのため、ユスティニアヌス王朝と直接の血縁関係はありません。

即位後

対外政策

即位後、西のランゴバルド族の侵攻に対抗するため、ラヴェンナとカルタゴに総督府を設置しました。また、サーサーン朝ペルシアから亡命してきたホスロー2世を支援し、娘マルヤムを嫁がせて復位させました。これにより、サーサーン朝との和睦を成立させることができました。

また、西ゴート王国の内乱に介入し、ヘルメネギルド王子と同盟を結びました。しかし、レオヴィギルド王から買収され、ヘルメネギルドを見捨て、その妻子をコンスタンティノープルに移送しました。その後、アタナギルドはマウリキウスの姪フラウィア・ユリアナと結婚し、後の西ゴート王エルウィグの父となるアルデバルトを儲けました。

最期

ユスティニアヌス1世の時代から続く戦争による戦費で、帝国の財政は悪化していました。マウリキウスは国費削減のため、軍隊に必要な物資を現地で調達するよう命じました。この命令が軍の不満を招き、さらにはドナウ川北岸での越冬作戦を強行したことが、致命的な反乱を招くことになります。

軍は下士官フォカスを担ぎ出し反乱を起こし、マウリキウスは廃位され殺害されました。さらに、彼の一族も皆殺しにされました。

死後

フォカスが皇帝に即位しましたが、マウリキウスの娘婿であるホスロー2世は、復讐を名目に東ローマ帝国へ侵攻し、東ローマ・サーサーン戦争が始まりました。

フォカスは猜疑心が強く、多くの貴族を粛清しました。その中には、修道院に幽閉されていたマウリキウスの妃コンスタンティナとその娘たち、さらには有力者ゲルマヌスも含まれていました。

最終的に、フォカスはカルタゴ総督ヘラクレイオスとその息子ヘラクレイオス、そしてその従弟ニケタスの反乱によって倒されました。息子ヘラクレイオスが先にコンスタンティノープルに入場し、フォカスを処刑して皇帝に即位しました。これがヘラクレイオス1世であり、ヘラクレイオス王朝の成立へと繋がります。

マウリキウスの治世は、東ローマ帝国が抱える構造的な問題が表面化した時期であり、彼の悲劇的な最期は、帝国の歴史における重要な転換点となりました。

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