マクラーレン・MP4-20

マクラーレンMP4-20：2005年シーズンの挑戦と革新

マクラーレンMP4-20は、2005年のF1世界選手権を戦ったマクラーレンのフォーミュラ1マシンです。エイドリアン・ニューウェイがテクニカルディレクター、マイク・コフランがデザイナーを務め、シーズンを通して実戦投入されました。MP4-20は、空力特性を重視した設計思想と、いくつかの革新的な技術的特徴を備えており、その性能は多くの注目を集めました。

画期的なフロントサスペンション「ゼロキール」方式

2005年シーズンはレギュレーションの変更により、フロントウイングの最低地上高が上昇、リヤウイングの位置も前方へと移動することとなりました。この変更は、特にフロントサスペンションの設計に大きな影響を与えました。従来、マクラーレンはMP4-17以降、フロントサスペンションのロアアームを支えるためにツインキール式を採用していましたが、このキールが下方気流を乱すことが問題視されるようになりました。

そこでMP4-20では、この問題点を克服すべく、斬新な「ゼロキール」方式（キールレス方式とも呼ばれる）を採用しました。これは、ロアアームをキールを用いずにモノコック下部に直接装着する方式です。これにより、マシン下面の気流を最適化し、空力性能の向上に大きく貢献しました。サスペンションアームが車輪に向かって下がる独特の配置も特徴的です。このゼロキール方式は、翌シーズン以降多くのチームに採用され、現在のF1における標準的な設計となっていますが、その先駆けとなったのがMP4-20でした。

空力デバイス「ホーンウイング」

MP4-20は、サイドポンツーンに独特の空力デバイスを装着していました。これは、インダクションポッドサイドに配置された「ホーンウイング」と呼ばれるパーツです。他のチームがダウンフォースの発生を目的としたミッドウイングを採用していたのに対し、MP4-20のホーンウイングは、飛行機の翼のような断面形状をしており、揚力を発生させることでマシン後方下部への気流を整え、リアウイングのダウンフォース発生量を増大させる役割を果たしました。このホーンウイングは、MP4-21やMP4-22にも継承され、マクラーレンの空力設計における重要な要素となりました。

その他の特徴

MP4-20には、2001年のMP4-16以来となるチムニーが復活しました。チムニーは排熱パーツとして機能し、マシンの冷却効率に貢献しました。また、フロントノーズはMP4-19Bよりも太い形状となっています。

カラーリング

MP4-20のカラーリングは、黒を基調としており、サイドポンツーンにはメインスポンサーである「ウエスト」のロゴが描かれていました。タバコ広告規制の対象国では、「ウエスト」の字体を模したドライバーの名前が記されていました。しかし、ハンガリーGP以降、ウエストがスポンサーから撤退したため、その後はドライバー名とジョニー・ウォーカーのロゴ（トルコGPを除く）に変更されました。

2005年シーズンの戦績

MP4-20は、ファン・パブロ・モントーヤとキミ・ライコネンという強力なドライバーコンビを擁していました。シーズン開幕当初はフロントの荷重不足によりタイヤの暖まりが悪く、予選でのパフォーマンスに苦戦しましたが、モントーヤの負傷欠場を機に、バラストを追加するなど改良が加えられ、ヨーロッパラウンド以降は本来の速さを見せるようになりました。

ライコネンは7勝を挙げ、アロンソと並ぶ活躍を見せましたが、メルセデス・ベンツエンジンの信頼性の低さが足を引っ張り、エンジンブローによるグリッド降格やリタイアが相次ぎました。結果的にアロンソがチャンピオンに輝き、マクラーレンはコンストラクターズランキングで2位に終わりました。しかし、MP4-20の速さは本物で、シーズン中12回のファステストラップを記録、日本GPでは17番手スタートから優勝を飾るなど、そのポテンシャルの高さを証明しました。

スペック

シャーシ名：MP4-20
全長：4770mm
全幅：1800mm
高さ：950mm
ホイールベース：3200mm
エンジン：メルセデスFO110R（V型10気筒、約960馬力）
* トランスミッション：7速シーケンシャルセミオートマチック

シーズンオフ

シーズンオフのテストでは、MP4-20のカラーリングが、黒を基調としたものからオレンジに変更されました。これは、マクラーレン創始者ブルース・マクラーレンの出身地であるニュージーランドのナショナルカラーです。

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