マクラーレン・MP4-23

マクラーレンMP4-23：2008年F1世界選手権を彩ったマシン

2008年のF1世界選手権で、マクラーレンチームを頂点へと導いたマシン、MP4-23。このマシンは、前年モデルであるMP4-22をベースに、更なる進化を遂げた傑作でした。開発過程においては、前年にチームが巻き込まれたフェラーリに対する産業スパイ疑惑を受け、FIAによる厳しい査察が行われたという影の部分も持ち合わせています。

MP4-22からの改良点は多岐に渡ります。最も顕著なのは、空力特性の向上です。サイドポッド下部の絞り込みがより激しくなり、サイドポッドの開口部や、空力デバイスであるチキンウィングの形状は非常に複雑化しており、見た目からはその構造を理解するのは困難なほどです。

前年マシンの弱点であったリヤタイヤへの負担軽減のため、MP4-23ではホイールベースを延長しました。これは、フェラーリのF2008とは逆のアプローチと言えるでしょう。リヤタイヤの位置を後方に変更することで、タイヤへの負担を軽減し、トラクション性能を向上させたのです。また、リヤウィングの効率向上のため、ブリッジウィングが標準装備されました。このブリッジウィングにはスリットが設けられ、ダウンフォースの発生に貢献しています。更に、チキンウィングからチムニーダクト、サイドポッドフェンスにかけては一体化され、リヤへと流れる空気を効率的に整流する工夫が施されました。

2008年シーズン：ハミルトンの劇的なチャンピオン獲得

2008年シーズン、チームのエースドライバーとなったのはルイス・ハミルトンでした。前年までチームメイトだったフェルナンド・アロンソの移籍により、ハミルトンはチームを背負う存在となりました。彼はモナコGPや地元イギリスGPを含む5勝を挙げ、ポイントランキングでライバルのフェリペ・マッサ（6勝）と激しいタイトル争いを繰り広げました。

最終戦ブラジルGP、最終ラップまでもつれ込んだその戦いは、ハミルトンが5位でフィニッシュし、マッサを1ポイント差で制するという、劇的な結末を迎えました。この勝利は、マクラーレンにとって1999年のミカ・ハッキネン以来のドライバーズタイトル獲得となりました。ハミルトンは、この年F1最年少チャンピオンの称号も手にしました。

しかし、ハミルトンのシーズンは、華々しい勝利だけでなく、幾つかの問題も抱えていました。カナダGPでのリタイアは、ピットレーン出口の赤信号を無視してライコネンに追突したことが原因でした。また、ベルギーGPではトップでフィニッシュしながらも、シケインショートカットにより3位に降格されるというペナルティを受けました。日本GPでは、スタート直後の多重接触事故に巻き込まれ、ペナルティを受けました。これらの出来事から、ハミルトンのドライビングマナーが幾度となく問われることとなりました。

チームメイトのヘイキ・コバライネンは、ハンガリーGPで初優勝を飾るなど活躍を見せましたが、表彰台獲得は3回にとどまりました。コンストラクターズランキングでは、フェラーリに次ぐ2位となりました。

MP4-23のスペック

MP4-23K：KERS搭載テストマシン

2009年シーズンに向けて開発されたMP4-24の登場まで、MP4-23はテスト車両として使用されました。このテスト車両はMP4-23Kと呼ばれ、2009年から導入が義務化されたKERS（運動エネルギー回生システム）を搭載していました。また、バージボードなどの空力パーツは取り外されていました。

11月18日に行われたバルセロナ合同テストでデビューしたMP4-23Kでしたが、KERSからのオイル漏れというトラブルに見舞われました。12月15日には、2009年レギュレーションに適合した扁平なフロントウイングと、それに合わせてデザイン変更されたフロントノーズをテストしました。このノーズは、オリジナルのMP4-23と比較して太さが特徴でした。MP4-23とその進化型であるMP4-23Kは、2008年シーズンのマクラーレンの挑戦と、その後の技術開発の過程を象徴するマシンと言えるでしょう。

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