マクルーバ

マクルーバ：ひっくり返す、伝統の味わい

マクルーバ（مَقْلُوبَة‎）は、レバント地方（レバノン、シリア、ヨルダン、パレスチナ）を原点とする、肉と野菜を炊き込んだご飯料理です。イラクやサウジアラビアでも親しまれており、その歴史は古く、13世紀の料理書『キターブ・アッ＝タビーフ（料理の書）』にも記載されているほどです。

材料と調理法

マクルーバの最大の特徴は、その調理法と提供方法にあります。鶏肉またはラム肉と、トマト、ジャガイモ、カリフラワー、ナスなどの様々な野菜を、深鍋の中で層状に丁寧に並べ、じっくりと炊き込みます。カリフラワーとナスは特に定番の野菜です。そして、出来上がった料理を、鍋ごとひっくり返して皿に盛り付けることで、美しく層になった断面を見せることができます。この「ひっくり返す」という動作が、料理名「マクルーバ」（アラビア語で「ひっくり返されたもの」の意）の由来となっています。

炊き上がったマクルーバには、松の実やみじん切りのパセリなどの付け合わせが添えられます。宴会や特別な集まりでは、サラダやヨーグルトと一緒に供されることもあります。

地域と文化

マクルーバはレバント地方を中心に広まりましたが、アラブ系住民の多い地域や、歴史的にレバント地方からの移民が多いイスラエルなどでも広く食べられています。そのため、イスラエル料理として紹介されることも少なくありません。

興味深いことに、トルコの一部地域でもマクルーバは知られており、2016年のトルコクーデター未遂事件に関与したとされるギュレン派が、食事会で好んで食べていたというエピソードがあります。ギュレン派の指導者、フェトフッラー・ギュレンの写真と共にマクルーバの食事会の写真が押収されたパソコンから発見されたことから、この料理はギュレン運動支持者らの間で一種のシンボルとして話題になりました。

名称と表記

料理名の「マクルーバ」は、アラビア語の動詞「qalaba（カラバ、ひっくり返す）」に由来する受動態の分詞「maqlūb（マクルーブ）」に女性名詞化接尾辞「-ah」が付いたものです。発音は、文語アラビア語では「maqlūbah（マクルーバ）」ですが、地域や方言によって「マクルーベ」「マグルーバ」「マグルーベ」「マッルーベ」など、様々なバリエーションが存在します。

英語表記も多様で、文語発音に基づいたMaqlubah、Maqlubaなどから、方言発音に基づいたMaglubeh、Ma'lubehなど、様々な表記が見られます。カタカナ表記も、マクルーバ、マクルーベ、マグルーバ、マグルーベなど、複数存在します。

まとめ

マクルーバは、その独特の調理法と美しい盛り付け、そして長い歴史と文化的背景を持つ、魅力的な料理です。レバント地方の伝統料理としてだけでなく、イスラエルやトルコなど、様々な地域で愛され続けているマクルーバは、国際色豊かな料理と言えるでしょう。その歴史、文化、そして味わい深い料理体験は、人々を魅了し続けています。

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