マグダラのマリア (コレッジョ)

コレッジョ作『マグダラのマリア』の詳細解説

作品概要

『マグダラのマリア』（伊: La Maria Maddalena, 英: The Magdalen）は、イタリア・ルネサンス期の画家コレッジョが1518年から1519年頃に制作した油彩画です。この作品は、聖書に登場するマグダラのマリアが、南フランスのプロヴァンス地方で隠遁生活を送ったという伝説を題材としています。現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されており、コレッジョの作品の中でも特に重要なものの一つとされています。

主題：悔悛と隠遁

マグダラのマリアは、キリストの死後、聖マルタや聖ラザロと共にプロヴァンス地方に渡り、各地で布教活動を行いました。その後、世俗を捨ててサント＝ボームの山中の洞窟に隠棲し、30年にわたって断食と悔悛の生活を送ったと伝えられています。この地で彼女は死期を迎え、天使によって天に運ばれた（被昇天）とされています。また、彼女がエクスやサン＝マクシマンに埋葬されたという伝承も存在します。13世紀になると、サント＝ボームはマグダラのマリア信仰の中心地として発展しました。1279年には、マグダラのマリアや聖マクシミヌスなどの墓が発見され、聖地巡礼の道が整備されました。サン＝マクシマンでは、1296年にサント・マリー・マドレーヌ大聖堂の建設が始まり、1532年に完成しました。

制作の背景

作品の発注に関する記録は残されていませんが、一般的にはマントヴァ侯フランチェスコ2世・ゴンザーガの妃イザベラ・デステが発注したと考えられています。イザベラはマグダラのマリアに深い信仰を抱いており、1517年にサント＝ボームを巡礼しました。その帰国後、コレッジョに作品を依頼した可能性が高いとされています。コレッジョ伯爵夫人ヴェロニカ・ガンバラが、1528年にイザベラに宛てた手紙の中でコレッジョ作のマグダラのマリアについて言及していますが、その作品は本作品とは図像的に異なるとされています。手紙に言及されている作品は、後に失われた別のバージョンであると考えられており、当時非常に高い評価を得ていたとされています。ヴェロニカ・ガンバラが、イザベラ・デステにコレッジョの作品を勧めた可能性も指摘されています。

作品の詳細

コレッジョは、サント＝ボームで隠遁生活を送るマグダラのマリアを、全身像で描いています。彼女は足を組んだコントラポストの姿勢で立ち、岩の上に置かれた書物に寄りかかり、鑑賞者の方を見ています。左手には香油壺を持ち、金髪の三つ編みはほつれ、肌の上を滑り落ちています。彼女を包む大きなマントは、かつての華美な衣装とは対照的に、質素で禁欲的な生活を象徴しています。マントのコバルトブルーは、周囲の植物の緑との色彩のコントラストを生み出しています。肩や胸、右脚が露出しているのは、かつて娼婦であった過去を想起させます。また、長く伸びた足の爪は、彼女の禁欲的な生活を強調する要素です。このディテールは、後の『聖ヒエロニムスの聖母』でも、隠者である聖ヒエロニムスを描く際に使われています。足元にはタンポポやピンクの花が咲き、背後の岩にはツタが這っています。これらの花はキリストの受難を、ツタは不死を象徴しています。

この作品では、コレッジョがマグダラのマリアの全身像を風景の中に描き、彼女を自然の中に溶け込ませています。手足と岩によって形作られた十字の形が、構図の中心を固定しています。正面性は、あいまいなコントラポストによって緩和され、真剣で遠い表情は、小さな画面にもかかわらず聖人に記念碑的な印象を与えます。このポーズは、古代ローマの石棺に由来する可能性があります。

制作年代は、メトロポリタン美術館所蔵の『四聖人』やカポディモンテ美術館所蔵の『ジプシー娘』に近い、1510年代末と考えられています。マグダラのマリアの顔と金髪は、コレッジョがパルマの聖パウロ修道院の壁画に描いた女神ディアナと類似しており、身体は同じく三美神と類似しているため、同時期に制作されたと考えられています。

作品の状態は完全ではなく、いくつかのバージョンが存在しますが、この作品はその中でも最も品質が高いと評価されています。

帰属と来歴

1930年に美術史家のコッラード・リッチが最初にコレッジョの作品として帰属させました。ロベルト・ロンギは1958年に複製であると主張しましたが、現在ではほとんどの研究者がコレッジョの真作と認めています。左足首にあるペンティメントは、複製説への反論となっています。

作品の来歴については、17世紀のコレクション目録にコレッジョのマグダラのマリアの記述が見られます。イングランド王チャールズ1世のコレクションにも、コレッジョ作の「小さな全身像」のマグダラのマリアが記録されていますが、これは別のバージョンである可能性もあります。19世紀には、フランスの哲学者フェリックス・ラヴェッソン＝モリアンが所有していたと考えられており、1903年にパリで売却されました。その後、1907年にオーストラリアの美術収集家ジョージ・ソルティングが所有し、1909年に彼の死後、ナショナル・ギャラリーに遺贈されました。

外部リンク

* ナショナル・ギャラリー公式サイト, おそらくコレッジョ『マグダラのマリア』

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