マザリンの宝石

『マザリンの宝石』

アーサー・コナン・ドイルによって書かれた短編小説『マザリンの宝石』は、シャーロック・ホームズシリーズの中でも特に興味深い作品の一つです。この作品はシャーロック・ホームズの冒険を描いた56篇の短編小説のうちの45番目にあたります。1921年にイギリスの『ストランド・マガジン』に掲載され、その後アメリカで『ハースツ・インターナショナル』にも登場しました。この短編は1927年に刊行された『シャーロック・ホームズの事件簿』に収録されています。

物語の舞台はロンドンのベーカー街221B。ワトソンがホームズを訪れるところから始まります。ホームズは、フランスの宰相ジュール・マザランに関連する宝石に絡んだ盗難事件に没頭していました。その部屋の中には、以前の冒険で使用された蝋人形が置かれており、ホームズはその蝋人形を介して再び何かを狙われています。この時点で、ホームズはすでに宝石を盗んだ犯人たちの正体を掴んでいるものの、肝心な宝石の行方がわからない状況です。

すると、その一味の首領であるシルヴィアス伯爵が現れ、事態はさらに緊迫します。ホームズはワトソンを警察に送り、伯爵との会話に臨むことにしました。ホームズは宝石を取り戻すため、伯爵に自らに有利な条件を提示します。「宝石を戻せば、この盗難事件に関しては見逃す」と持ちかけます。その間、ホームズは別室でバイオリンを奏で、伯爵は手下のサムと一緒にどう対処するかを決める時間を与えました。

しかし、伯爵とサムはホームズをだまそうとしたものの、予想以上に早くホームズが宝石を取り戻してしまいます。この瞬間、ホームズの鋭い洞察力と推理が光ります。

この『マザリンの宝石』の作品自体には、正典性についての議論が存在します。つまり、シャーロキアンたちにとって、この物語が実在の事件を基にしているかどうかは疑問視されることが多いのです。一部の研究者は、作品の中でのホームズの蝋人形との入れ替わりや、ベーカー街の部屋の構造が他の短編とは異なることから、現実味が欠けていると指摘しています。他の作品では、ワトソンが語り手として描かれるのが一般的ですが、この作品では珍しく三人称で語られています。

さらに、この短編の起源には戯曲『王冠のダイヤモンド』があることが知られています。この戯曲は、短編小説『マザリンの宝石』の原作とも言えるもので、1921年にロンドンで初演されました。しかし、長い間その関係は知られておらず、戯曲の執筆が1900年代初頭であったことが後に確認されました。どちらの作品も内容はほぼ同じですが、登場人物の名前や結末に若干の違いがあります。

また、『マザリンの宝石』がコナン・ドイル自身による偽作であるとの説も存在します。この説は、戯曲が発表されなかった理由やプロットの類似性を元にしています。いずれにしても、ドイルの作品には常に何かしらの謎が隠されており、それがシャーロック・ホームズの魅力の一部となっているのは間違いないでしょう。

もう一度検索