マシュー・カウフマン

マシュー・カウフマン（Matthew H. Kaufman、1942年9月29日 - 2013年8月11日）氏は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍したイギリスの著名な生物学者、遺伝子学者です。

エディンバラ大学で長年にわたり教鞭を執り、1985年から2007年まで解剖学教授を務めた後、名誉教授の称号を得ました。氏はケンブリッジ大学およびエディンバラ大学において、30年以上にわたり解剖学と発生学の講義を行い、多くの学生を指導しました。

カウフマン氏の最も特筆すべき業績の一つは、胚性幹細胞（ES細胞）の研究における貢献です。1981年、彼はケンブリッジ大学のマーティン・エヴァンス卿（Sir Martin Evans）やアメリカのゲイル・R・マーティン（Gail R. Martin）氏らと共に、マウスの胚発生初期段階である胚盤胞（blastocyst）からES細胞を分離することに成功しました。この発見は、遺伝子改変マウスの作製や発生生物学の研究に革新をもたらし、その後の再生医療研究の基礎を築く上で極めて重要な一歩となりました。

研究活動と並行して、カウフマン氏は精力的な執筆活動でも知られています。特にマウスの発生学に関する専門書を複数出版しており、これらはこの分野の研究者にとって不可欠な参考文献となっています。代表的な著作としては、『Early Mammalian Development: Parthenogenetic Studies』（1983年）、詳細な図版を含む『The Atlas of Mouse Development』（1992年、改訂版多数）、およびJ.B.L.バード氏との共著である『The Anatomical Basis of Mouse Development』（1999年）などが挙げられます。これらの著作は、哺乳類の初期発生に関する知識の普及と深化に大きく貢献しました。

また、カウフマン氏は医学史、特にイギリスの軍事外科手術の歴史や18世紀・19世紀のエディンバラ大学における医学教育史にも深い関心を持ち、これらのテーマに関する重要な著作を複数発表しています。『Surgeons at War』（2001年）では、18世紀後半から19世紀にかけてのイギリス陸軍における傷病者治療の体制を詳細に分析し、『The Regius Chair of Military Surgery in the University of Edinburgh – 1806-55』（2003年）では、エディンバラ大学の軍事外科講座の歴史を掘り下げました。さらに、彼はエディンバラで活躍した著名な医学者、ジョン・バークレー博士（Dr John Barclay）やロバート・リストン（Robert Liston）の伝記も執筆しており、地域の医学史研究にも貢献しました。

カウフマン氏の学術論文は240編にも及び、その多岐にわたる研究領域と深い学識を示しています。発生生物学におけるES細胞研究のパイオニアとして、そして医学史研究の分野においても、マシュー・カウフマン氏は多大な功績を残しました。彼の業績は、科学界および歴史学界の両方に永続的な影響を与えています。

もう一度検索