マシュー・サード・ムハマド

1954年 6月16日、アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアに生まれたマシュー・サード・ムハマドは、イスラム教への改宗前はマックスウェル・アントニオ・ローチという名だった。ボクシングの世界で彼は特にライトヘビー級で輝かしい足跡を残し、第10代WBC世界同級王者として知られる。そのキャリアを通じて見せた驚異的な粘り強さと逆転劇から、「Miracle（奇跡の男）」という愛称で親しまれた。

1974年1月14日、故郷フィラデルフィアでのライトヘビー級戦でプロのリングに上がり、2ラウンドTKO勝利で鮮烈なデビューを飾る。初期のキャリアでは白星を重ねる一方、ウェイン・マクギーには初の判定負けを喫し、再戦では引き分けとなるなど、様々な経験を積んだ。1976年には、後にWBC世界ライトヘビー級王者となるメート・パルロフに判定勝ちを収め、将来を嘱望される存在となる。また、後のクルーザー級世界王者、マービン・カメルとも対戦し、一度は勝利したが再戦で判定負けを喫している。エディ・ムスタファ・ムハマド（後のWBA世界王者）にも判定で敗れるなど、この時期に強豪たちとの激しい戦いを経験したことは、その後の成長に繋がった。

彼のキャリアにおいて重要な転機となったのは、1977年7月26日のNABF北米ライトヘビー級王座決定戦だった。後のライトヘビー級2冠王者となるマービン・ジョンソンとのこの一戦で、彼は最終ラウンドに劇的な大逆転TKO勝利を収め、王座を獲得。この勝利が、「奇跡の男」伝説の序章となった。このNABF王座を3度防衛した後、1979年4月22日、WBC世界ライトヘビー級王者となっていたマービン・ジョンソンに挑戦。インディアナポリスで行われたリマッチで、彼は8ラウンドTKO勝ちを収め、ついに世界王座の栄光を手にした。

WBC王者となったマシュー・サード・ムハマドは、以降8度にわたって防衛に成功する。元王者のジョン・コンテとの2度にわたる激戦や、ヤクイ・ロペスとの苦しい戦いを制した。特に印象的なのは、1981年4月25日、後のIBF世界スーパーミドル級王者となるマレイ・サザーランドを相手に、劣勢を覆して逆転KO勝ちを収めた試合だろう。これらの戦いぶりは、まさに彼のニックネームである「奇跡の男」を体現しており、多くのファンの心を掴んだ。しかし、1981年12月19日、アトランティックシティでドワイト・ムハマド・カウィを相手に9度目の防衛戦に臨んだが、10ラウンドTKO負けを喫し、王座から陥落した。

王座陥落後も現役を続行したが、カウィとの再戦でも敗れ、世界王座への返り咲きは叶わなかった。その後もリングに上がり続けたが、ウィーリー・エドワーズとのNABF王座戦に敗れた後、一時引退を表明する。1986年に復帰したものの、かつての輝きを取り戻すことは難しく、後のIBF世界クルーザー級王者ユーライア・グラントや、後のWBO世界クルーザー級王者マルクス・ボットといった選手たちにも敗れた。そして1992年3月21日、ジェイソン・ワーラーにKO負けを喫した試合を最後に、ボクサーとしてのキャリアに終止符を打った。

引退後は、主に世界戦の舞台となったアトランティックシティでトレーナーとして後進の指導にあたった。現役時代の功績、特にライトヘビー級における強さが評価され、引退からわずか8年後の1998年には、権威ある国際ボクシング名誉の殿堂博物館にモダン部門で殿堂入りを果たした。これは彼のボクシング史における地位の高さを示すものである。死後、リングマガジンは彼を「偉大なベストパンチャー100人」の24位に選出し、その破壊力と影響力を再認識させた。

晩年は筋萎縮性側索硬化症（ALS）と闘病を続けていたが、2014年 5月25日、呼吸筋麻痺により死去。59歳だった。その誕生日を迎えるわずか一ヶ月前のことだった。マシュー・サード・ムハマドは、「奇跡の男」として、逆境を跳ね返す不屈の精神とエキサイティングなファイトで、今なお多くのボクシングファンの記憶に深く刻まれている。

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