マシュー・シェパード

マシュー・シェパード事件：アメリカ社会を揺るがしたヘイトクライム

マシュー・シェパード（1976年12月1日 - 1998年10月12日）は、アメリカ合衆国の元大学生です。彼は同性愛者であることを理由に、21歳の時にワイオミング州ララミーで暴行を受け殺害されました。この事件は、アメリカ社会におけるホモフォビア（同性愛嫌悪）とヘイトクライム（憎悪犯罪）の問題を浮き彫りにし、大きな議論を呼びました。

生い立ちと事件

シェパードはワイオミング州キャスパーで、父デニス・シェパードと母ジュディ・シェパードの長男として生まれました。彼はスイスのアメリカン・スクールに通い、イタリア語やドイツ語を学びました。その後、ワイオミング大学の政治学部に入学しています。

1998年10月6日、シェパードはララミーのバーで出会った二人の男、ラッセル・アーサー・ヘンダーソンとアーロン・ジェイムス・マッキニーに、郊外に連れ出されました。そこで彼は激しい暴行を受け、フェンスに縛り付けられた状態で放置されました。翌日、発見されたシェパードは、コロラド州フォート・コリンズの病院に搬送されましたが、5日後の10月12日に死亡しました。

全米を揺るがした事件

シェパードの事件は、その残虐性から全米で大きく報道され、ヘイトクライムに対する意識を高めるきっかけとなりました。葬儀の際には、ウエストボロ・バプテスト教会の牧師フレッド・フェルプスが、事件を擁護するような発言を行い、各方面から強い非難を浴びました。

1999年11月、裁判でヘンダーソンには仮釈放の可能性のある終身刑、マッキニーには仮釈放の無い終身刑が言い渡されました。この裁判の過程でも、事件の背景にあったホモフォビアが改めて浮き彫りとなりました。

マシュー・シェパード法の成立

事件後、ヘイトクライムを取り締まる法律の制定を求める声が高まりました。1999年には、当時のビル・クリントン大統領が法案を提出しましたが、議会の同意を得られず成立には至りませんでした。その後、2007年に民主党議員ジョン・コニャーズが、ヘイトクライムを禁じる「マシュー・シェパード法」を発案。連邦議会上院を通過しましたが、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が拒否権を行使する可能性を示唆しました。ナンシー・ペロシ下院議長は2008年に法案成立を目指しましたが、実現しませんでした。

法案が最終的に成立したのは、バラク・オバマが大統領に就任後の2009年10月22日でした。上院を通過し、10月28日に大統領が署名したことで、「マシュー・シェパード法」は正式に法律として施行されました。この法律は、人種、宗教、民族、性別、性的指向、性自認、障害に基づくヘイトクライムを連邦法で取り締まることを可能にするものです。

事件が残した教訓

マシュー・シェパード事件は、ホモフォビアやヘイトクライムが社会に与える深刻な影響を改めて認識させました。彼の死を悼み、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、社会全体で差別や偏見をなくしていく努力が求められています。

事件後、マシュー・シェパード財団が設立され、LGBTQ+の権利擁護や、ヘイトクライム撲滅のための活動を続けています。また、事件を題材にした舞台作品「ララミー・プロジェクト」も制作され、世界中で上演されています。

マシュー・シェパード事件は、私たちに多様性を尊重し、互いを理解し合うことの大切さを教えてくれています。

関連項目
ホモフォビア
ヘイトクライム
ララミー・プロジェクト
コーパス・クリスティ (戯曲)

外部リンク
The Matthew Shepard Foundation
「ワイオミング州・同性愛の学生がリンチで死亡」
* 「産経新聞・マシュー・シェパードさん殺害事件を積極報道」

もう一度検索