マスクROM

マスクROM：書き換え不可能な不揮発性メモリ

マスクROM（Mask ROM）は、コンピュータシステムで用いられる不揮発性メモリの一種です。一度データが書き込まれると、その後は内容を変更することができません。この特徴は、半導体の製造工程において、フォトマスクを用いて記憶内容が決定されることに由来します。製造時にデータが回路に物理的に書き込まれるため、電源を切ってもデータは保持されます。

マスクROMの用途

マスクROMは、データの変更が不要な用途に最適です。そのため、大量生産が前提となる様々な機器で広く利用されてきました。代表的な用途としては、以下のものが挙げられます。

ゲーム機のソフト供給媒体 (ROMカートリッジ)： 家庭用ゲーム機の歴史において、長らく主要なソフト供給媒体として利用されてきました。ファミコンから近年発売されたゲーム機まで、多くのタイトルでマスクROMが採用されています。
組み込みシステムのファームウェア： 制御装置や家電製品など、組み込みシステムにおけるプログラムの格納に用いられます。
1チップマイコン内蔵のプログラムコード/データ用ROM： マイコン内部に組み込まれ、動作に必要なプログラムやデータが格納されます。
外付けのプログラムコード/データ用ROM： 機器外部に接続されるROMで、プログラムやデータを格納します。
プリンタやグラフィックコントローラの漢字(フォント)ROM： 文字表示に必要なフォントデータを格納します。
音楽機器の音色データ： 楽器の音色データを格納し、音質を決定します。
電子辞書の辞書データ： 電子辞書に搭載される辞書データを格納します。
CPUのマイクロコード： CPUの動作を制御するマイクロコードを格納します。

メリットとデメリット

マスクROMは、他の不揮発性メモリ（PROM、EPROM、フラッシュメモリなど）と比較して、いくつかのメリットとデメリットを持っています。

メリット：

低コスト： 大量生産の場合、チップ単価を非常に低く抑えることができます。これは、製造工程が比較的単純で、高集積化が容易であるためです。
高集積度： セル構造や周辺回路が単純なため、単位面積あたりの記憶容量を大きくできます。

デメリット：

高額な初期費用： マスクを作成する費用が必要となり、大量生産を見込めない場合は、初期費用が大きな負担となります。
製造期間の長さ： マスクの製造に数日から1ヶ月程度の期間を要するため、製品化まで時間がかかります。
* 書き換え不可： 一度書き込まれたデータは変更できません。そのため、バグ修正や機能追加といったアップデートが不可能です。この点が、近年におけるマスクROMの利用減少の一因となっています。

ゲーム機におけるマスクROMとコスト

半導体製造技術の進歩により、マスクROMの大容量化、低価格化が進んでいます。ファミコン初期のROMカートリッジは32KB程度でしたが、近年発売されているゲーム機の容量は数GBに達するものもあります。この技術革新は、ゲームソフトの高機能化、大容量化に貢献しました。

近年の動向

1980年代にはPROM、UV-EPROMが、1990年代中頃以降はフラッシュメモリが、マスクROMに替わる選択肢として台頭してきました。書き換え可能なこれらのメモリは、バグ修正や機能追加といった柔軟な対応を可能にするため、特に組み込み機器分野ではマスクROMから置き換えが進んでいます。しかし、大量生産に向くというマスクROMのメリットは、現在でもなお多くの場面で活用されています。

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