マスダール・シティ

マスダール・シティ：未来型エコシティの挑戦

マスダール・シティは、アラブ首長国連邦（UAE）のアブダビ首長国が主導する、革新的な都市開発プロジェクトです。この都市は、最先端のエネルギー技術を導入し、二酸化炭素排出量と廃棄物をゼロにすることを目指した、持続可能なエコシティとして設計されています。

プロジェクトの概要

マスダール・シティの開発は、アブダビ政府系ファンドであるムバダラ開発公社の子会社、アブダビ未来エネルギー公社（ADFEC）が中心となって進められています。都市の設計は、英国の著名な建築事務所フォスター・アンド・パートナーズが担当し、太陽光発電などの再生可能エネルギーを最大限に活用する計画です。都市はアブダビ市の南東約17kmに位置し、アブダビ国際空港の近くに建設されています。

都市計画の詳細

2006年に始まったこのプロジェクトは、約8年の工期と220億米ドルの投資が見込まれていました。都市の面積は約6.5平方キロメートルで、45,000人から50,000人の居住が可能となる予定です。また、商業施設や環境配慮型の製造工場も併設され、60,000人以上の通勤者が毎日利用すると想定されています。さらに、マサチューセッツ工科大学（MIT）の支援を受けて設立されたマスダール工科大学（MIST）が、研究開発の中核を担っています。

マスダール・シティは、自動車の乗り入れを禁止し、都市の周囲に壁を設けることで砂漠からの熱風を遮断します。都市内には狭い道が張り巡らされており、冷たい風が街全体に行き渡るように工夫されています。都市へのアクセスは、公共交通機関や個人用高速輸送システム（PRT）を利用し、都市外の交通拠点と接続されます。このような計画的な都市設計は、世界でも最新の事例の一つであり、過去にはロシアのノヴォシビルスク市や日本の筑波研究学園都市などが類似例として挙げられます。

このプロジェクトには、ADFECをはじめ、英・Consensus Business Group、クレディ・スイス、独・シーメンス・ベンチャー・キャピタルなどが、ファンドグループであるMasdar Clean Tech Fundを通じて参画しています。第1期工事は米・CH2M HILL社が担当し、インフラ建設はAl Jaber Groupが、本部ビルの設計はエイドリアン・スミス・アンド・ゴードン・ギル・アーキテクチャー社がそれぞれ担当しています。

再生可能エネルギーの活用

マスダール・シティでは、多様な再生可能エネルギー源が活用されています。初期段階では、ドイツのコナジー社が建設した40〜60メガワット規模の太陽光発電所が、建設現場に必要な電力を供給しています。将来的には、大規模な発電所と屋上へのソーラーパネル設置により、最大130メガワットの発電能力を達成する計画です。また、都市外には20メガワット規模の風力発電所が設置され、地熱発電の利用も検討されています。さらに、世界最大級の水力発電所の建設も計画されています。

水源に関しても環境への配慮が徹底されており、マスダール・シティでの水消費量は同規模のコミュニティと比較して60％低いとされています。太陽光発電で稼働する海水淡水化施設が水供給を担い、使用済み水の約80％がリサイクルされます。雑排水は農業用水など、他の目的にも再利用されます。

廃棄物ゼロ化を目指し、有機性廃棄物は肥料や土壌改良材として再利用され、焼却発電にも活用されます。プラスチックや金属などの産業廃棄物は、リサイクルや他の目的への転用が図られます。

国際的な反響と評価

マスダール・シティの構想は、世界自然保護基金（WWF）やサステナビリティ関連のNGOであるBioRegionalなど、多くの環境保護団体から支持を受けています。特に、ゼロカーボン、ゼロ廃棄物、その他の環境への取り組みが評価され、WWFとBioRegionalは共同で、この構想を「地球一個分の暮らし」認定地域としています。

一方で、このプロジェクトがアブダビの象徴として利用されるだけで、富裕層向けの贅沢な都市に終わるのではないか、という懐疑的な見方も存在します。

現在の状況と課題

しかし、世界経済の低迷の影響により、マスダール・シティの計画は大幅に遅延しています。当初2016年に完成予定でしたが、現状では進捗度は5％未満にとどまります。都市の中心部には、マスダール工科大学や国際再生可能エネルギー機関（IRENA）、シーメンスの先進的なビルが建っていますが、居住者は大学院生300人にとどまり、自動交通システムも最初の2駅が完成した後、放棄されました。完成予定は2030年まで延期されており、ガーディアン紙は「打ち捨てられたゼロ・カーボン都市の夢」と評し、その壮大さと計画の遅延を指摘しています。

マスダール・シティは、持続可能な都市モデルを目指す野心的なプロジェクトですが、その実現にはまだ多くの課題が残されています。今後の開発動向が注目されます。

参考資料

マスダール・シティ公式サイト
Masdar City 公式パンフレット（PDF）
スイスビレッジ in マスダール（PDF）
クリーンテック最前線 スマートシティが「業界」の壁を崩す日（日本経済新聞）
* AbuDhabist.com -マスダール・シティ特集記事-

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