マセラティ・キャラミ

マセラティ キャラミ：希少なスポーツクーペの軌跡

マセラティが1976年から1983年にかけて製造したスポーツクーペ、キャラミ。その名は、南アフリカグランプリの開催地として知られるキャラミサーキットに由来します。1967年の南アフリカGPで、マセラティエンジンを搭載したクーパー・T81が優勝した歴史を記念して名付けられました。

誕生の背景：危機からの脱出

キャラミの誕生には、マセラティ社の経営危機が深く関わっています。1976年、シトロエンからマセラティを買収したデ・トマソは、財政難に陥っていたマセラティを立て直すため、急ピッチで開発を進めました。

ベース車両として選ばれたのは、デ・トマソ・ロンシャン。この2+2クーペは、比較的高い評価を得ていたモデルでした。しかし、キャラミでは、ロンシャンのフォード製V8OHVエンジンを、マセラティ伝統のV8DOHCエンジンに換装。さらに、トム・ジャーダのデザインをベースに、ピエトロ・フルアが内外装を手がけ、マセラティらしい雰囲気を醸し出すように改良されました。ただし、基本設計はロンシャンを踏襲しており、純粋なマセラティ車とは異なる面も持ち合わせています。

メカニズム：伝統と革新

エンジンは当初、4,200cc、255馬力でしたが、1978年以降は4,900ccに排気量が拡大されました。トランスミッションはZF製の5速MTと3速ATが選択可能で、パワーステアリングも標準装備。快適性と走りの両立を図った設計が特徴です。

興味深いのは、キャラミのエンジンとシャシーが、マセラティの4ドアセダン、クアトロポルテIIIにも流用された点です。デ・トマソ主導で開発されたキャラミとクアトロポルテIIIは、それまでのマセラティのモデルとは異なり、量産車としての性格を強く持っていました。これらは、コスト高や独特の設計が課題だったカムシン、ボーラ、メラクに替わる、マセラティの主力車種として、1981年末にビトゥルボが登場するまで活躍しました。

生産と評価：希少性の高い一台

キャラミの生産台数は、155台から210台の間で諸説あります。日本にも僅かながら輸入され、一部のマニアの間では知られた存在です。文献も少ないため、知名度は高くありませんが、所有者の間では、高い剛性と優れたバランス、パワフルなエンジンを持つ、隠れた名車として評価されています。その希少性から、今日ではコレクターアイテムとしての価値も高まっています。

まとめ：マセラティの歴史に刻まれた1ページ

マセラティ・キャラミは、同社の経営危機と、その打開策としての開発という、独特の背景を持つモデルです。ロンシャンをベースとしながらも、マセラティの伝統を受け継ぎ、独自の進化を遂げたキャラミは、マセラティの歴史の中でも、重要な1ページを飾るモデルと言えるでしょう。その希少性と優れた性能から、今日のコレクターカー市場においても注目を集めています。

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