マツダ・757

マツダ・757：挑戦の軌跡

マツダ・757は、1986年のル・マン24時間レースと全日本耐久選手権を戦うために、マツダスピードによって開発されたプロトタイプレーシングカーです。最大の特長は、マツダ初となる3ローターエンジン13G型（後に20Bと改称）の搭載です。この654cc×3のロータリーエンジンは、出力向上を目指した挑戦の象徴でした。シャシー設計はナイジェル・ストラウド、ボディデザインは数々の名車を手掛けた三村建治が担当し、変速機にはポルシェ製ギアユニットを採用するなど、開発には世界的な技術が投入されました。

開発の背景：クラスを超える挑戦

757の開発は、それまでの2ローターエンジン搭載車、マツダ・717Cや737Cの後継機として、上位クラスへのステップアップを目指したプロジェクトでした。当時、C2クラスでは、出力と燃費の優位性を持つフォードDFLなどのエンジンが活躍しており、マツダは対抗策として3ローター化を図りました。しかし、燃費悪化によりC2規定を満たせず、C1クラスへの参戦を検討するものの、それでもターボエンジン勢には出力で劣る状況でした。

そこで、IMSA-GTP規定への参戦戦略が採択されます。この規定は、最低車重がC1より軽く、マツダの3ローターエンジンの燃費特性を活かすことが期待できるものでした。結果的に、ル・マン24時間レースにおけるIMSA-GTPクラスは、事実上マツダ専用のカテゴリーとなります。

マシン概要：空力性能と信頼性の追求

757のシャシーは、当時のC1クラスを代表するポルシェ・962Cを参考に設計されています。アルミ製モノコックにサイドラジエターを採用し、サスペンションはフロントにダブルウィッシュボーン、リアにベルクランク方式を採用することで、優れたコーナーリング性能を実現しました。ボディデザインにおいてもポルシェ・962Cをベースに空力特性の最適化を追求し、日本とイギリスでの風洞実験を経て、ポルシェを上回る数値を実現したと三村建治は述べています。

変速機は、従来のマシンでオーバーヒート問題を抱えていたヒューランド製から、ポルシェ製ギアユニットを採用。ギアケーシングを独自設計することで、トータル性能の向上を図りました。

3ローターエンジンは、2ローターエンジンの前部にローターを追加した構造で、電子式インジェクション（EGI）を採用。出力軸は1+2の構造でテーパ結合方式とし、エンジン全長が伸びることで発生する剛性低下を抑制するため、オイルパンをアルミニウムハニカム板に変更するなど、細部にも工夫が凝らされています。最終的なレース用エンジンの型式はR20B、市販用は20Bとなり、ユーノスコスモにも搭載されました。

戦績：栄光と苦闘の日々

1986年のデビュー戦は全日本耐久選手権鈴鹿500kmで6位完走。ル・マン24時間レースではトヨタや日産を上回るペースで走行するものの、ドライブシャフト破損などでリタイヤという結果に終わりました。その後も全日本耐久選手権では安定した成績を残し、1987年にはル・マン24時間レースでIMSA-GTPクラス優勝を達成するなど、その実力を証明しました。

1988年には、4ローターエンジン搭載の767の投入により、757はル・マン24時間レースを最後にマツダスピードからの参戦を終えます。しかし、その後も静マツレーシングや片山レーシングといったプライベートチームに受け継がれ、1991年まで活躍を続けました。特筆すべきは、1987年のテレビ朝日系列特撮ドラマ「光戦隊マスクマン」への出演です。劇中では主人公たちのレーシングチームのマシンとして登場し、オープニングなどで走行シーンを見ることができます。

757のその後：現存する4台のマシン

製造された4台のマツダ・757は全て現存しており、それぞれのマシンには独自の物語があります。001号車はテスト用として使用され、後に787B仕様に変更されました。002号車はマツダが所有し、003号車はレストアを経てヒストリックレースに参加。004号車はイギリスの個人オーナーが所有し、往年のカラーリングでヒストリックレースに参戦しています。これらのマシンは、マツダの挑戦の歴史を今に伝える貴重な存在です。

まとめ：技術と挑戦の結晶

マツダ・757は、3ローターエンジンという革新的な技術と、ル・マン24時間レースという過酷な舞台に挑み続けたマツダの挑戦の歴史を象徴するマシンです。その活躍は、日本のモータースポーツ史に大きな足跡を残しました。そして現在も、現存する4台のマシンが、その輝かしい歴史を語り継いでいます。

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