マティルデ・フォン・ザクセン (979-1025)

マティルデ・フォン・ザクセン：激動の時代を生きた皇女

マティルデ・フォン・ザクセン（979年 - 1025年）は、神聖ローマ皇帝オットー2世と皇后テオファヌの娘として生まれました。彼女の生涯は、皇族でありながらも、予想外の結婚や政治的な対立に翻弄される、波乱に満ちたものでした。

修道院での生活と予期せぬ結婚

幼い頃からエッセン修道院で過ごしたマティルデは、当初、修道院長となることを期待されていました。姉たちも同様に、修道院長として過ごしています。しかし、彼女はロートリンゲン宮中伯エッツォと結婚します。これは、当時としては身分違いの結婚であり、多くの人々を驚かせました。ティートマールによれば、弟の皇帝オットー3世は、この結婚を認めざるを得ず、エッツォ家に対し財産を与え、生活水準を保証する必要があったといいます。

結婚の時期は定かではありませんが、991年または993年頃と考えられています。この結婚には、興味深い逸話が残されています。ブラウヴァイラー修道院の年代記によると、若いオットー3世がエッツォに「チェスで自分を倒したら、望みを叶える」と約束し、エッツォはマティルデとの結婚を望んだといいます。母后テオファヌもこの結婚を許可し、エッツォはエッセン修道院からマティルデを連れ出したとされています。ただし、このチェスの話は作り話である可能性が高く、実際には、オットー3世の権力基盤を固めるための政治的な意図があったと考えられています。

エッツォ家は、ライン川下流やモーゼル川下流に広大な領地を持つ有力な貴族であり、カロリング朝時代からその地位を確立していました。また、エッツォの母はシュヴァーベン公家の出身であり、その家柄は決して低いものではありませんでした。マティルデとエッツォの結婚は、皇帝家と有力貴族を結びつけるという、政治的な意味合いを持っていたのです。

結婚生活と政治的な対立

エッツォはマティルデより20歳ほど年上でしたが、夫婦仲は良好で、10人の子供をもうけました。しかし、マティルデの結婚生活は、平穏なものではありませんでした。オットー3世から受け取った持参金は、オットー3世の死後、皇帝ハインリヒ2世によって没収されてしまいます。これに対し、エッツォはハインリヒ2世と対立し、1012年にはオーダーンハイムの戦いで勝利を収めました。

その後、ハインリヒ2世は、ポーランドとの関係を安定させるため、エッツォと和解します。ハインリヒ2世には子供がいなかったため、エッツォとマティルデの娘をポーランド王と結婚させようと考えたのです。和解の証として、エッツォはデュースブルクなどの領地を与えられました。

死と遺産

1025年、マティルデはエヒェツェで急死しました。彼女は、夫エッツォと共に創建したブラウヴァイラー修道院に埋葬されました。マティルデとエッツォの子供たちは、それぞれ重要な地位を占め、その血筋は後世にまで受け継がれていきました。娘のリヒェツァはポーランド王ミェシュコ2世と結婚し、ケルン大司教となったヘルマン2世もいます。

マティルデ・フォン・ザクセンは、皇女として生まれ、政略結婚という形で有力貴族と結びつき、激動の時代を生き抜きました。彼女の生涯は、当時の政治情勢や社会構造を反映しており、歴史を学ぶ上で貴重な資料となっています。

もう一度検索