マディ・メスプレ

マディ・メスプレ

マディ・メスプレ（Mady Mesplé, 1931年3月7日 - 2020年5月30日）は、フランス出身の著名なオペラ歌手です。特に20世紀後半のフランス楽壇において、類稀なる声質と技巧で喝采を浴びました。

経歴と芸術性

トゥールーズの高等音楽院で、ピアノと声楽の両方を専門的に学びました。その音楽的素養を礎に、1953年に歌劇『ラクメ』のタイトルロールでオペラ歌手として鮮烈なデビューを飾ります。このデビューを皮切りに、彼女はフランス国内外でその名を知られるようになります。

メスプレの歌声の最大の魅力は、その圧倒的な透明感と若々しさにありました。この特徴的な声質は、リリック・ソプラノの抒情的な表現から、コロラトゥーラ・ソプラノの技巧的なパッセージまでを自在に歌い分けることを可能にしました。彼女は、特にフランス・オペラの知られざる作品や、繊細な表現が求められる芸術歌曲の分野に深く取り組み、EMIフランスから数多くの録音をリリースしています。これらの録音は、彼女の幅広いレパートリーと、フランス音楽への深い理解を示すものとして、今なお高く評価されています。

また、メスプレは愛らしい容姿も相まって、オペレッタの分野でも絶大な人気を誇りました。そのチャーミングな舞台姿と、技巧に裏打ちされた軽妙な歌唱は、多くの聴衆を魅了しました。彼女のキャリアは、伝統的なレパートリーに留まらず、現代音楽にも及んでいます。例えば、指揮者ピエール・ブーレーズがCBSに残したアルノルト・シェーンベルクのオラトリオ『ヤコブの梯子』の録音では、主要な登場人物の一人として参加し、その多才さを示しました。

教育活動と国際交流

歌手としての華々しい活動と並行して、メスプレは後進の育成にも熱心に取り組みました。1985年から1990年にかけて、パリのエコール・ノルマル音楽院で声楽科の教授を務め、次世代の歌手たちに自身の持つ技術と経験を伝えました。

日本との音楽交流にも深く関わりました。彼女は「日仏音楽友の会」（AFJAM）の発起人の一人として、両国の音楽文化の橋渡しに尽力しました。具体的な活動としては、2000年と2002年の秋に日本を訪れ、AFJAMサロンで開催されたマスタークラスや講演会で講師を務め、日本の音楽学生やファンと直接交流を持ちました。さらに、2006年度には京都フランス音楽アカデミーの招待教授に任命されるなど、日本の音楽教育への貢献も顕著でした。

マディ・メスプレは、その輝かしい歌声と幅広い活動を通じて、フランス音楽界に多大な貢献をしました。特にフランスのオペラやオペレッタにおける彼女の功績は、今なお多くの人々に記憶されています。

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