マトラ・ジェット

ジェット：世界初の市販ミッドシップスポーツカー

1962年から1967年にかけて、フランスの自動車メーカー、ルネ・ボネ社（後にマトラ社に買収）によって製造された「ジェット」は、世界で初めてミッドシップレイアウトを採用した市販スポーツカーとして知られています。この革新的な設計は、フォーミュラカーの世界では既に常識となっていましたが、市販車への導入は当時非常に画期的でした。

ルネ・ボネ・ジェット：先駆的な挑戦

ルネ・ボネ・ジェットは、ルノー8のエンジンとギアボックスを前後逆に搭載することでミッドシップレイアウトを実現しました。そのため、ホイールベース2400mm、幅1500mmという、細長く独特のプロポーションが特徴です。

性能は、搭載するエンジンによって異なりました。ジェットIは65馬力、最高速度165km/h。ジェットIIはゴルディーニ製の80馬力エンジンを搭載し、最高速度190km/hに達しました。さらに、レース用としてDOHC998cc、100馬力のジェットIIIも存在しました。

しかし、高度な機構と魅力的な性能にもかかわらず、ルネ・ボネ社の生産体制は小さく、価格も高価だったため、1964年2月までにわずか197台しか生産されませんでした。商業的な成功とはならず、フランス国外での認知度も低いまま生産中止となりました。ル・マン24時間レースにも参戦しましたが、目立った成績は残せず、1963年に熱効率指数賞を獲得したのみでした。

マトラ・ジェット：デザインと性能の向上

1964年、ルネ・ボネ社はマトラ社に買収されます。マトラ社は、元シムカのフィリップ・ゲドンを起用し、ジェットのデザインを一新。「マトラ・ジェット」として1965年4月に再登場しました。

車体前後のデザイン、ウィンドスクリーンの形状、内装が変更され、より洗練されたモデルとなりました。ラインナップは、ジェット5（70馬力、最高速度170km/h）、ジェット5S（90馬力、最高速度190km/h）、そしてジェット6（105馬力、1255ccエンジン、最高速度210km/h）の3種類。1966年以降は「Jet」と表記されました。

しかし、当時のフランスにおいても、日本円換算で200万円を超える高価格帯だったため、販売台数は伸び悩み、1495台で生産を終了しました。

ジェットの後継車とモータースポーツ

1967年に登場した後継車M530は、ミッドシップレイアウトを継承しつつも、ドイツフォード製のV型4気筒エンジンを搭載し、2+2座席とするなど、大幅な変更が加えられました。ファミリー層の取り込みも目指した設計でしたが、ジェットとは異なるモデルでした。

モータースポーツにおいては、マトラ・ジェットはラリーに参戦しましたが、ライバルのアルピーヌに敵わず、大きな成果を残すことはありませんでした。

まとめ

ルネ・ボネ・ジェット、そしてマトラ・ジェットは、世界に先駆けてミッドシップレイアウトを採用した画期的なスポーツカーでしたが、商業的な成功は収められませんでした。しかし、自動車史において重要な位置を占める一台であることは間違いありません。その革新的な設計思想は、後のスポーツカー開発に多大な影響を与えたと言えるでしょう。

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