マヌエル・コントレラス

フアン・マヌエル・コントレラス：チリ軍事政権下の秘密警察長官

フアン・マヌエル・ギジェルモ・コントレラス・セプルベダ（1929年5月4日 - 2015年8月7日）は、チリの軍人であり、アウグスト・ピノチェト将軍による軍事政権下で、秘密警察である国家情報局（DINA）の長官を務めた人物です。彼は、反体制派への容赦ない弾圧を指揮したことで知られ、その後の裁判で終身刑を宣告されました。

生い立ちと軍歴

1929年、コントレラスはサンティアゴで生まれ、幼少期をマクル英語学校で過ごした後、オソルノへ移り中等教育を受けました。1944年に士官候補生学校に入学し、1947年に卒業。准尉として第2工兵連隊に配属されました。

1952年には中尉に昇進し、士官候補生学校で教官を務めます。翌年、マリア・テレサ・ヴァルデベニト・エスティーブンソンと結婚。1960年にはチリ陸軍士官学校に入学し、参謀将校としての教育を受け、ここで後の独裁者となるアウグスト・ピノチェトと出会っています。

1962年に士官学校を首席で卒業し、参謀の肩書きと情報・兵站学の教授資格を得ました。1967年にはアメリカ陸軍米州学校に留学し、反政府活動への対処法を学んでいます。1969年に少佐として帰国し、工兵学校で情報工作に関する教育を行いました。1971年にはオソルノの第4工兵連隊長に任命されています。この時期、彼は左翼組織への潜入や情報機関設置の準備を行い、極右政党やCIAなどの外国諜報機関とも接触していました。

軍事政権とDINA

1973年9月11日のクーデターでピノチェト将軍側に与し、サンアントニオの制圧を指揮しました。その後、コントレラスは士官学校校長に就任し、国家情報局（DINA）の設立を主導します。1973年11月12日、DINAが正式に発足し、コントレラスは長官に就任。反体制派に対する激しい弾圧を開始しました。

DINAは、国内外で軍事政権の障害となる勢力を捜索・駆逐し、特に国内の共産党、社会党、MIRなどの左翼運動は徹底的に弾圧されました。真実と和解のための国民委員会報告書によれば、DINAによって1,500人以上が殺害されたとされています。また、CIAの資料によると、1975年から1977年にかけて、CIAはコントレラスに資金援助を行っていたとされています。

コンドル作戦への関与

機密解除されたCIAの資料によると、コントレラスは1975年にCIA本部を訪問し、その後コンドル作戦の発案者として記録されています。コンドル作戦は、南米の軍事政権が連携して反対勢力を弾圧した作戦で、コントレラスはCIAの協力者として活動し、資金提供も受けていました。

1976年9月には、元駐米チリ大使オルランド・レテリエルがワシントンD.C.で暗殺される事件が発生。この事件にDINAとコントレラスが関与していることが判明し、CIA内でも彼に責任を問う声が上がりました。また、1974年のカルロス・プラッツ元陸軍総司令官夫妻の殺害にも、コントレラスとDINAが関与していたとされています。コントレラスはCIAからコンドル作戦を拡大するよう指示を受け、莫大な資金が与えられたとされています。

DINAの終焉と失脚

1977年10月、レテリエル事件に関する証言を予定していた外務省領事局長が不審死を遂げ、コントレラスとDINAによる暗殺の疑いが浮上。事態を重く見た軍事政権当局はDINAを解体し、新たに中央国家情報局（CNI）を設置しました。長官を退任したコントレラスには陸軍大将の階級が送られました。

1978年、アメリカからの身柄引き渡し要求を拒否し自宅に立てこもった後、一時収監されましたが、最終的にチリ政府はアメリカの要求を拒否しました。1980年に陸軍を退役後、警備会社を設立し、農場も経営しています。

CIAとの関係

CIAの対チリ工作に関する報告書によると、CIAは1974年から1977年にかけて、DINA長官であるコントレラスと定期的に接触していました。アメリカ政府は、コントレラスとの関係がチリ国内での弾圧に関するCIAへの責任追及を招くリスクを認識していましたが、情報収集のため、彼との協力を維持していました。

2004年のインタビューで、コントレラスはDINAとCIAが密接に協力していたことを認め、1973年のクーデター後の反体制派追跡について「指示」があったと述べています。また、プラッツ将軍の暗殺を実行したのはCIA局員であったと主張しています。

裁判と晩年

軍事政権崩壊後、コントレラスはDINA長官としての活動について多くの裁判にかけられました。レテリエル暗殺事件では懲役7年、その他の人権侵害事件で合計360年以上の懲役と2件の終身刑が宣告されました。しかし、後に懲役275年に減刑されています。彼は高級将校であったため、陸軍通信学校の敷地内に設置された軍事刑務所に収監されました。

晩年は、結腸直腸癌、糖尿病、高血圧など多くの病気に苦しみ、2015年8月7日にサンティアゴの軍病院で死去しました。彼の死は、多くの国民に祝福されました。

コントレラスの生涯は、チリの暗い過去を象徴するものであり、人権侵害の責任を問われた人物として、その名は歴史に刻まれています。

もう一度検索