マネキンウォーズ

マネキンウォーズ：蘇る伝説、新たな旅の始まり

2005年、長年の沈黙を破り復活を遂げたSFドラマ『ドクター・フー』。その新シリーズの幕開けを飾ったのが、第1話「マネキンウォーズ」（原題：Rose）です。本エピソードは、ロンドンのデパートで働くごく普通の女性ローズ・タイラーと、謎めいた異星人にしてタイムトラベラーである9代目ドクターの出会いを描きます。

新たなる時代、新たなドクター

1963年から1989年まで放送された旧シリーズから26年ぶりの復活。プロデューサーのラッセル・T・デイヴィスは、アメリカドラマ『バフィー～恋する十字架～』にインスパイアされた、テンポの良い45分エピソードという新たなフォーマットを採用。長きにわたるドクター役の交代劇を避け、新シリーズはクリストファー・エクルストン演じる9代目ドクターから始まることになりました。エクルストンは、ドクター役を演じた9人目の俳優です。従来のドクターの再生描写を省いたことで、視聴者は過去のシリーズに縛られずに、新鮮な気持ちで新たな物語に没頭できるという狙いがありました。

9代目ドクターは、従来のドクターよりも現実的で、ユーモアを交えながらも無駄を省いた性格として描かれました。そして、彼のパートナーとなるコンパニオン役に選ばれたのが、ビリー・パイパー演じるローズ・タイラー。彼女は、ドクターの旅に同行する、平凡ながらも勇敢な女性です。彼女の存在は、労働階級出身という点で、過去のコンパニオン像とは一線を画すものでした。

ローズの家族、母親のジャッキーと恋人のミッキーも物語に重要な役割を果たし、彼女の日常をよりリアルに表現しています。ミッキーは、本作では謎のエイリアン、オウトンに襲われるという、日常的な状況の中に潜む恐怖を巧みに描いた演出の犠牲者となります。

制作の舞台裏：カーディフからロンドンへ

撮影は主にBBCウェールズの拠点であるカーディフで行われ、ロンドンでの撮影も数日間実施されました。ロンドン・アイを背景にしたシーンは、夜間の撮影となるため、慎重な準備と綿密な計画の下で撮影が行われました。撮影場所の選定には苦労した箇所もあり、理想のピザ店を探すのに時間がかかったエピソードも制作陣によって語られています。

スタジオ撮影はニューポートで行われ、特殊効果チームは、ネスティーン意識体のアジト爆発シーンを表現するため、1/6スケールの模型を作成し、壮大な爆発シーンを撮影しました。予算の都合から、現実の建物を爆破するのではなく、模型とCGIを駆使した技術力が、復活した『ドクター・フー』を支えています。

撮影過程では、脚本の変更や追加撮影も複数回行われ、ドクターとローズの関係性を深める演出や、視聴者の没入感を高めるための工夫が施されています。例えば、ターディスの内部を初公開する演出は、監督のアイデアにより、当初の予定から変更されています。

放送と評価：世界へ羽ばたく『ドクター・フー』

2005年3月26日、イギリスで放送された「マネキンウォーズ」は、瞬く間に視聴者を魅了しました。平均視聴者数は990万人、ピーク時には1050万人を超える記録的な視聴率を達成しました。その後、カナダ、オーストラリア、アメリカと世界各国で放送され、いずれも高い評価を得ています。日本でもNHKで放送され、多くのファンを獲得しました。

批評家の評価も概ね高く、脚本、演技、特殊効果などが絶賛されました。ローズの自立したキャラクターや、現代的な視点を取り入れたストーリー展開が、新シリーズの成功に大きく貢献したと評価されています。しかし、ユーモア描写に関しては賛否両論があり、大人には物足りないという意見も存在しました。

2020年には、放送15周年を記念してTwitter上で世界同時上映イベントが開催され、制作陣も参加。さらに、お蔵入りとなっていた前日譚が公開されるなど、現在もなお高い人気を誇るシリーズの記念碑的な第1話となりました。

小説版：テレビシリーズを超える深淵

2018年には、小説版も発売されました。テレビシリーズとは異なる描写や追加されたシーン、登場人物によって、より深く物語世界を楽しむことができる作品となっています。テレビ版ではまだ登場していない未来のドクターが登場するなど、テレビシリーズを超えた魅力が詰め込まれています。

「マネキンウォーズ」は、単なるSFドラマの復活劇ではなく、新たなスターの誕生、革新的な制作技術、そして世界的な人気獲得という、複数の成功要因が融合した作品と言えるでしょう。

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