マハゾール

マハゾール（מַחֲזוֹר, Mahzor）

マハゾールは、ユダヤ教の暦において特定の重要な祝祭日に使用される、特別な祈りを集めた祈祷書です。特に、一年で最も神聖とされる大祝祭日であるローシュ・ハッシャーナー（新年祭）とヨーム・キップール（大贖罪日）の礼拝で中心的に用いられます。さらに、巡礼祭とも称される三大祭、すなわちペサハ（過越祭）、シャーブーオート（七週祭）、スッコート（仮庵祭）においても、それぞれの祭日に合わせたマハゾールが使用されます。

シッドゥールとの違い

ユダヤ教徒が日常生活の中で日々行う礼拝のために用いられる一般的な祈祷書は「シッドゥール」と呼ばれます。シッドゥールには、毎日の朝、昼、晩の祈りや安息日（シャバット）の祈りが収められています。これに対し、マハゾールは特定の祝祭日という「特別な機会」に特化しており、その祭日固有のテーマ、歴史、教義に関連した祈りや朗唱、読み物が含まれています。したがって、マハゾールはシッドゥールと並び、ユダヤ教の礼拝において不可欠な役割を果たす祈祷書ですが、その用途と内容において明確に区別されています。

内容と特徴

マハゾールの内容は、それぞれの祝祭日の性質を反映しています。大祝祭日のマハゾールには、一年の始まりと自己省察、罪の告白、贖罪、そして神の裁きへの畏敬といったテーマに基づいた祈りが多く含まれます。三大祭のマハゾールには、出エジプト（ペサハ）、律法授与（シャーブーオート）、仮庵での生活と収穫への感謝（スッコート）など、それぞれの祭日の歴史的・宗教的な意味合いに関連した祈りが収められています。

マハゾールの重要な要素の一つに「ピーユート」（Piyyut）と呼ばれる典礼詩の付加があります。ピーユートは、詩的な表現を用いて祝祭日のテーマを深く探求したり、聖書の物語を解説したりするもので、礼拝に豊かな感情と文学性をもたらします。すべてのマハゾールにピーユートが含まれるわけではありませんが、多くの権威ある版には重要なピーユートが収められています。

また、マハゾールの内容は、基本的な祈りの構成や主要な本文は共通しているものの、ユダヤ教の各コミュニティー（会衆）や伝統（アシュケナジム、セファルディムなど）によって、含まれるピーユートの種類や順序、一部の祈りの文言などが異なる場合があります。これは、シッドゥールにも見られる特徴であり、ユダヤ教の多様性と各地の習慣が祈祷書の形成に影響を与えていることを示しています。

語源と現代ヘブライ語での意味

ヘブライ語の「マハゾール」（מַחֲזוֹר）という語は、文字通りには「周期」や「循環」を意味します。この言葉が祝祭日の祈祷書に用いられているのは、これらの祭日が毎年、周期的に巡ってくることに由来すると考えられています。

現代ヘブライ語においても、「マハゾール」は「周期」「循環」「サイクル」といった意味で広く使用されています。例えば、「マハゾール・ハッダーム」（מַחֲזוֹר הַדָּם）は「血液の循環」を、「マハゾール・ゼラーイーム」（מַחֲזוֹר זְרָעִים）は農業における「輪作」を指すなど、日常的な語彙としても使われています。

マハゾールは単なる祈りの手引書ではなく、特定の祝祭日が持つ深い精神性、歴史、共同体のアイデンティティを反映する、ユダヤ教の重要な文化財産であり、信徒にとって精神的な支柱となる存在です。

関連事項

ユダヤ教の礼拝 (Jewish services)
ユダヤ教の祝祭日 (Jewish holiday)
ピーユート (Piyyut)
ArtScroll（有名な宗教書出版社）

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