マヨンベ

マヨンベ：アンゴラ独立戦争下の葛藤とアイデンティティ

1980年、アンゴラ人作家ペペテラによって発表された小説『マヨンベ』は、アンゴラ独立戦争下の激動期を舞台に、人々の葛藤とアンゴラ人のアイデンティティを深く探求した力作です。1971年から1972年にかけて、当時アンゴラ解放人民運動（MPLA）の政治委員だった著者が、政治コミュニケとして書き記したもので、当初は出版を意図していませんでした。

物語の舞台：カビンダの密林

舞台はポルトガル領アンゴラの飛地、カビンダの密林です。ポルトガルの植民地支配が終焉を迎えようとしていた1971年、アンゴラ本土と同様にMPLAのゲリラが組織され、コンゴ人民共和国を拠点にポルトガル軍との独立戦争を繰り広げていました。

主要登場人物：理想と現実の狭間で

物語の中心となるのは、MPLAゲリラの司令官セン・メドと政治委員（コミサリオ）です。セン・メドはコンゴ族出身の知性派で、ヨーロッパ留学の経験を持ちます。高い知性ゆえに、アンゴラの部族主義やMPLA内部の官僚主義を鋭く批判する一方、社会主義ユートピアの可能性にも懐疑的なニヒリスト的な側面も持ち合わせています。一方、コミサリオはキンブンド族出身の教条的な社会主義者で、セン・メドとはしばしば意見が対立します。

他にも、作戦部長のシェフェ・デ・オペラソンィス、基地の教師テオリア、唯一のカビンダ族戦士ルタモス、そして補給担当官アンドレなど、個性豊かな登場人物たちが登場し、それぞれの立場や思想から独立戦争やMPLA内部の権力闘争に巻き込まれていきます。特にアンドレの汚職とオンディナ（コミサリオの婚約者）との不倫が発覚したことで、物語は新たな展開を迎えます。

ゲリラたちの日常と葛藤

小説は、戦闘シーンだけでなく、ゲリラたちの日常や人間関係、思想的な対立なども克明に描かれています。例えば、ポルトガル軍との戦闘でゲリラ戦士が捕虜から金を盗んだ事件や、アンドレの汚職による食糧不足など、現実的な問題を通して、MPLA内部の矛盾や弱点が浮き彫りにされます。

セン・メドは、部族主義や官僚主義、そして人間的な愛憎といった複雑な要素が絡み合う独立戦争の現実を目の当たりにし、理想と現実のギャップに苦悩します。コミサリオもまた、教条的な社会主義の理想と現実の乖離に直面し、人間不信に陥っていく様子が描かれています。

アンゴラ人のアイデンティティの探求

『マヨンベ』は単なる戦争小説ではなく、アンゴラ人のアイデンティティを深く探求した作品です。白人社会主義者として独立戦争に参加したペペテラ自身の経験が、この小説に反映されていると考えられます。様々な部族や民族が混在するアンゴラ社会において、部族主義や民族対立が独立運動にどのような影響を与えたのか、そして真の独立とは何かを問いかけていると言えるでしょう。

結語

『マヨンベ』は、1980年度アンゴラ文学賞を受賞したように、アンゴラ独立戦争をリアルに描写し、政治的、社会的な葛藤を複雑に描き出した傑作です。読み進めるうちに、独立戦争の激しさだけでなく、人々の心の葛藤や、アンゴラ社会の複雑な構造が深く理解できるでしょう。単なる戦争小説の枠を超え、アンゴラ人のアイデンティティや歴史を理解する上で重要な作品となっています。

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