マラリ事件

マラリ事件とは

1974年1月、日本の田中角栄首相がインドネシアを訪問した際、首都ジャカルタで大規模な暴動が発生しました。この事件は「マラリ事件」と呼ばれています。「マラリ」とは、インドネシア語で「1月15日の災難」を意味する「Malapetaka Limabelas Januari」の略称です。

事件の背景

当時、インドネシアではスハルト政権に対する不満が高まっていました。特に、日系企業がスハルト大統領側近の将校や華人系財閥と癒着し、ビジネスを拡大していることに対する批判が強かったのです。また、学生運動も再び活発化し、政府や外国への批判が強まっていました。このような状況下で、田中首相の訪問は、不満の矛先を向ける格好の機会となりました。

事件の経過

1974年1月14日、田中首相はジャカルタのハリム空港に到着しましたが、デモ隊によって主要道路が封鎖されており、迂回して迎賓館に向かうことになりました。迎賓館での会議は無事に終了しましたが、その外では暴動が激化し、3日間にわたる内乱状態となりました。

この暴動で、11名が死亡、17名が重傷、120名が負傷、約770名が拘束されました。また、1,000台以上の車両が破壊され、144棟の建物が破壊または焼損しました。この様子は日本国内でもテレビ中継され、インドネシアの激しい反日感情に、日本国民は大きな衝撃を受けました。

田中首相は、インドネシア滞在中、迎賓館から一歩も出ることができず、17日にはヘリコプターで空港に向かい、インドネシアを後にしました。

インドネシア政府は、事件から1週間後、「暴動は政権打倒と憲法改正を目指す謀略だった」との結論を発表し、当時の治安責任者を更迭しました。しかし、その治安責任者は後に権力を取り戻しました。

事件の多面性

マラリ事件は、単なる反日暴動としてだけでなく、以下の側面も持ち合わせていました。

スハルト政権の「新秩序体制」に対する不満の爆発
スハルト政権内部の権力闘争

これらの要素が複雑に絡み合い、事件をより深刻なものにしたと考えられます。

事件後の影響

この事件は、インドネシアと日本の双方に大きな影響を与えました。

インドネシア側

スハルト大統領への権力集中が加速しました。

日本側

インドネシアに対する見方が変化し、経済的な側面だけでなく、文化交流の重要性が認識されるようになりました。
外務省は文化交流事業を推進するようになりました。
福田ドクトリンへと繋がる、発展途上国に対する外交姿勢の変化が起こりました。

現在の状況

マラリ事件は、現在のインドネシアの若者にはあまり知られていません。2014年のアンケート調査では、学生の約7割が事件について知らないと回答しています。

しかし、この事件は、日インドネシア間の関係に大きな転換点をもたらし、その後の両国の関係に大きな影響を与えたことは間違いありません。経済的な結びつきだけでなく、文化交流の重要性を再認識させる契機となったのです。現在の日インドネシアの良好な関係は、この事件を教訓とした両国の努力の賜物であると言えるでしょう。

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