マリア・カレルギス

マリア・カレルギス：美貌と知性で彩られた波乱の生涯

マリア・カレルギス（1822年 - 1874年）は、19世紀のヨーロッパ社交界で名を馳せたポーランドの貴族女性です。その美貌と才能で多くの芸術家を魅了し、サロンを主宰し、音楽家や文筆家を支援することで、芸術文化の発展に大きく貢献しました。彼女の生涯は、華やかさの裏に隠された苦悩と、自立した女性としての強さに満ちています。

生い立ちと教育

マリアは、ドイツ系貴族の父フリードリヒ・カール・ネッセルローデ伯爵とポーランド人の母テクラ・ナウェンチュ＝グルスカの間にワルシャワで生まれました。しかし、両親の不仲により幼少期に別居し、6歳でサンクトペテルブルクに住む伯父カール・ロベルト・ネッセルローデ伯爵の屋敷に引き取られます。伯父はロシア帝国の外相を務めるほどの重鎮であり、マリアは彼の監督下で高度な教育を受けました。

音楽好きの両親から音楽的な才能を受け継いだマリアは、フレデリック・ショパンからピアノの指導を受け、その才能を高く評価されました。また、母親からポーランド語を教わったほか、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ロシア語を自由に操ることができました。これらの語学力は、後の国際的な活躍の礎となりました。

結婚と社交界デビュー

1839年、17歳で大地主のヤン・カレルギス伯爵と結婚しますが、年の離れた夫との関係は良好ではありませんでした。一人娘の誕生後、すぐに別居し、ヨーロッパ各地を転々とする生活を送ります。しかし、カレルギス伯爵はマリアの贅沢な生活費を援助し続けました。

1847年にパリに移り住んだマリアは、サロンの女主人として華やかな生活を送ります。フランツ・リスト、リヒャルト・ワーグナー、アルフレッド・ド・ミュッセ、ハインリヒ・ハイネなど、数々の著名な音楽家や文筆家たちが彼女のサロンに集い、交流を深めました。ワーグナーは歌劇『トリスタンとイゾルデ』をマリアに献呈し、ハイネは彼女を主題とした詩「白い象」を書いています。

特に、詩人のツィプリアン・ノルヴィトはマリアに熱烈な恋心を抱き、彼女を「白いセイレーン」と称賛しました。ノルヴィトは求婚しますが、マリアはこれを拒否しています。

芸術のパトロンとして

1857年にワルシャワに戻ったマリアは、芸術のパトロンとして慈善活動のためのコンサートや演劇を主催しました。スタニスワフ・モニューシュコの歌劇『ハルカ』の上演を実現させたのもマリアの功績です。当初、劇場総監督の反対がありましたが、マリアの働きかけによって上演が実現しました。

また、ワルシャワ音楽院（現在のショパン音楽アカデミー）の再建を支援するなど、ポーランドにおける音楽文化の発展に大きく貢献しました。ワルシャワに戻ってからは、ピアニストとしても活躍しています。

再婚と晩年

1863年にカレルギス伯爵が亡くなると、マリアは11歳年下のロシア人青年将校セルゲイ・ムハノフと再婚しました。彼女の影響力により、ムハノフはワルシャワ劇場総監督に就任します。

1874年、マリアはワルシャワで亡くなり、ポヴォンスキ墓地に埋葬されました。彼女の波乱に満ちた生涯は、多くの人々に語り継がれています。

マリア・カレルギスは、美貌と知性、そして何よりも芸術を愛する心を持ち合わせた女性でした。彼女のサロンは、当時のヨーロッパにおける文化交流の拠点となり、多くの芸術家たちに影響を与えました。彼女の功績は、ポーランドの音楽文化史に永遠に刻まれることでしょう。

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