マリア・フォン・トラップ

マリア・アウグスタ・フォン・トラップは、1905年オーストリアに生まれました。幼くして母を亡くし、その後父も亡くした彼女は、親戚の家に預けられたのち、全寮制の学校へ進学します。ウィーンの教育カレッジ卒業後は、音楽への情熱を深め、教会音楽に感銘を受けてキリスト教へ傾倒していきました。

ザルツブルクの修道院に入りましたが、修道院生活になじめず、フォン・トラップ家の家庭教師として働くことになります。そこで、ゲオルク・フォン・トラップとその7人の子供たちと出会い、深い愛情と信頼関係を築いていきました。1927年、マリアはゲオルクと結婚し、12人の大家族を築きます。

1930年代、オーストリアの経済危機とナチス政権の台頭により、一家はオーストリアを脱出することを決意します。マリアは、子供たちの歌の才能を活かし、合唱団を結成。各地で公演を行うことで生計を立てていきました。この合唱団は瞬く間に人気を博し、『トラップ室内聖歌隊』としてヨーロッパ各地で活躍しました。

1938年、オーストリアがドイツに併合されると、一家はアメリカへの亡命を決意します。アメリカでは、合唱団の名前を『トラップ・ファミリー合唱団』に変更し、聖歌だけでなくフォークソングも取り入れるなど、活動を展開。アメリカ全土をツアーし、大きな成功を収めました。1948年にはアメリカ市民権を取得しました。

マリアは、家族の歴史を記した自叙伝を出版し、ベストセラーになります。この自叙伝を原作としたドイツ映画『菩提樹』とその続編は制作され、その後、アメリカで『サウンド・オブ・ミュージック』としてミュージカル、映画化されました。映画は世界的な大ヒットとなりましたが、マリアは映画の内容に失望したと語っています。映画は、実際の人生とは大きく異なる部分があり、夫ゲオルクの人物像も歪められていると感じていました。

しかし、マリアはジュリー・アンドリュース主演の映画版『サウンド・オブ・ミュージック』を高く評価しており、共演したテレビ番組では、亡命時の苦労話や、映画のエンディング以降の顛末などを語っています。アメリカでの生活では、バーモント州にトラップ・ファミリー・ロッジを開設し、そこで家族と共に生活し、講演活動も行いました。

マリア・フォン・トラップは、1987年に亡くなりました。彼女の人生は、音楽への情熱、信仰、家族への愛情、そしてナチス政権からの逃亡劇など、数々のドラマチックな出来事で彩られています。映画『サウンド・オブ・ミュージック』は、彼女の人生の一部を切り取ったものですが、彼女が経験した困難と希望に満ちた生涯の全てを語るには不十分です。彼女の生き方は、多くの人々に感動と勇気を与え続けています。

マリアは、自叙伝以外にもいくつかの著作を残しています。それらの著作を通じて、彼女の信仰、家族への愛情、そして困難に立ち向かう彼女の強い意志を垣間見ることができます。これらの著作は、映画とは異なる視点から、マリア・フォン・トラップという人物像を深く理解する上で貴重な資料となっています。 彼女の物語は、単なる成功物語ではなく、困難を乗り越え、希望を追い求めた一人の女性の生き様を描き出しています。

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