マリア・ミッチェル

マリア・ミッチェル：19世紀アメリカの女性天文学者のパイオニア

マリア・ミッチェル (1818年8月1日 - 1889年6月28日) は、19世紀アメリカを代表する女性天文学者です。マサチューセッツ州ナンタケット島で生まれ、アマチュア天文家であった父の影響を受け、幼い頃から天文学に親しみました。両親はクエーカー教徒で、当時の社会通念にとらわれず、娘であるマリアにも男子と同じ教育を受けさせるという進歩的な考えを持っていました。

図書館司書として働きながら、父親の私設天文台で観測を続け、献身的に天文学の研究に打ち込みました。そして1847年、彼女はミッチェル彗星 (C/1847 T1) を発見するという偉業を成し遂げます。当時、彗星の発見にはデンマーク王から贈られるメダルが与えられるなど、大きな注目を集めていました。イタリアの天文学者も同時期にこの彗星を発見しましたが、アメリカ天文界の働きかけにより、ミッチェルが最初の発見者として認められました。この功績により、彼女はカロライン・ハーシェル以来の女性彗星発見者として国際的な名声を得て、1848年にデンマーク国王からメダルを授与されました。

ミッチェルの業績は高く評価され、1848年にはアメリカ芸術科学アカデミーの会員に選ばれました。これは女性として初の快挙でした。その後、アメリカ科学振興協会の会員にも選ばれ、アメリカ航海暦局では金星の天体表の計算などにも携わりました。また、著名な作家ナサニエル・ホーソーンとその家族と共にヨーロッパへの旅行も経験しています。

1865年には、ヴァッサーカレッジの天文学教授に就任し、同大学の天文台の台長も務めました。教育者としての彼女は、多くの女性たちに天文学への道を切り開く役割を果たしました。しかし、その一方で、同じ職務の男性教授よりも低い給与しか支払われず、昇給交渉をする必要がありました。これは、当時の女性に対する社会的地位の低さを反映するものでした。

ミッチェルは、天文学研究だけでなく社会活動にも積極的に参加しました。クエーカー教徒からユニテリアンに改宗した後、奴隷制度廃止運動にも参加し、綿製品の使用を拒否するなど、強い信念に基づいた行動をとりました。また、女性の権利向上運動にも積極的に関わり、エリザベス・ケイディ・スタントンらと共に「アメリカ女性進歩協会 (American Association for the Advancement of Women)」の設立にも貢献しています。

ミッチェルの功績は、彼女自身の死後も長く称えられています。マリア・ミッチェル天文台は彼女の功績を称えて命名され、彼女はナショナル・ウィミンズ・ホール・オブ・フェイムにも選出されました。さらに、第二次世界大戦中の海軍の船舶や月のクレーターにも、彼女の名前が付けられています。

マリア・ミッチェルは、天文学における偉大な発見と、女性の権利向上運動への貢献を通じて、19世紀アメリカ社会に大きな足跡を残した、真のパイオニアであったと言えるでしょう。彼女の生涯は、私たちに、科学への情熱と社会正義への強い信念の大切さを教えてくれます。

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