マリオ・ドラギ

マリオ・ドラギ：イタリアの経済学者から欧州の救世主、そして首相へ

マリオ・ドラギは、イタリアを代表する経済学者、銀行家、そして政治家です。1947年生まれ。ローマ・ラ・サピエンツァ大学卒業後、マサチューセッツ工科大学にて経済学博士号を取得。その後、フィレンツェ大学教授、世界銀行勤務を経て、1991年にイタリア財務長官に就任しました。

イタリア経済の改革：民営化とガバナンス

財務長官時代、ドラギはイタリア経済における国家主導の半官半民企業のあり方に問題意識を抱き、民営化を推進しました。当時、イタリア政府は企業スキャンダルに揺れており、政治改革も求められていました。彼は民営化委員会委員長として、電気通信事業のテレコム・イタリアなどを中心に大胆な民営化政策を進め、巨額の資金調達に成功。政府債務の削減とEU加盟基準への適合に貢献しました。この功績により「ドラギ法」と呼ばれるコーポレートガバナンスに関する法律制定にも深く関わりました。

国際舞台での活躍：金融危機とユーロ危機

ゴールドマン・サックス副会長を経て、2006年にはイタリア銀行総裁に就任。2008年の世界金融危機下において、金融安定化フォーラム議長を務めるなど、国際的な金融安定に尽力しました。

2011年には欧州中央銀行（ECB）総裁に就任。まさに欧州ソブリン危機の渦中でした。「ユーロ崩壊」の危機が叫ばれる中、ドラギは「ユーロ存続のために必要なことは何でもする」と断言し、大規模な量的金融緩和政策やマイナス金利政策など、果敢な政策を断行。ユーロ圏経済の安定に貢献したことで「ユーロの救世主」「スーパーマリオ」と呼ばれました。フォーブス誌の世界で最もパワフルな人物ランキングにもランクインするなど、世界的な評価を得ました。

イタリア首相への就任と政治的挑戦

ECB総裁退任後の2021年、イタリアはCOVID-19パンデミックによる混乱の真っただ中にありました。この状況下で、ドラギは首相に就任。国民連合、五つ星運動、民主党など、異なるイデオロギーの政党による広範な連立政権を率いました。

しかし、政権運営は容易ではありませんでした。インフレ対策をめぐる与党間の意見対立は深刻化し、2022年には、主要与党の協調が崩れ、ドラギは辞任しました。彼の首相としての在任期間は、イタリアの政治的安定と経済回復への課題を示すものでした。

まとめ：歴史的貢献と残された課題

マリオ・ドラギは、経済学者として、中央銀行総裁として、そして首相として、イタリアと欧州経済に多大な貢献をしました。彼の大胆な政策決定とリーダーシップは、世界経済に大きな影響を与えました。しかし、彼のキャリアは、単なる成功物語ではなく、経済政策と政治的現実の複雑な相互作用を浮き彫りにしたものでもあります。彼の経験と見識は、今後の経済・政治課題への対応において、重要な示唆を与え続けるでしょう。

もう一度検索