マリー・アンヌ・ド・マイイ＝ネール

マリー・アンヌ・ド・マイイ＝ネール（シャトールー公爵夫人）

18世紀中頃のフランス宮廷において、ブルボン朝の王ルイ15世の最も影響力のある公妾の一人として知られるのが、シャトールー公爵夫人となったマリー・アンヌ・ド・マイイ＝ネール（1717年 10月5日 - 1744年 12月8日）です。ネール姉妹として名を馳せた五人姉妹の末娘にあたる彼女は、その美貌と才覚をもって、姉たちをも凌ぐほどの栄華を極めました。

宮廷への登場

マリー・アンヌは1734年にトゥルネル侯爵と結婚し、領地で暮らしていましたが、既に宮廷で成功を収めていた姉たちの姿に触発され、夫を説得してヴェルサイユへの移住を果たしました。その後、夫が病死したことで、彼女はより自由な立場を得て、宮廷社交界での活動を活発化させます。

愛妾の座へ

際立つ美貌の持ち主であったマリー・アンヌは、たちまち宮廷の男性たちの注目の的となります。中でも、当時関係を持っていたデギュイヨン公爵リシュリューの叔父であり、姉妹の後見人でもあったリシュリュー元帥は、王が彼女の美しさに惹かれていることを見抜き、自身の甥から王へ彼女を差し出すという大胆な策略を巡らせます。

リシュリュー元帥の計らいにより、王妃付き女官となったマリー・アンヌは、かつて姉ポーリーヌ・フェリシテが辿った道を歩むことになります。驚くべきことに、当時既に公妾であった姉ルイズ・ジュリーは、妹の宮廷入りを歓迎したと言われています。リシュリュー元帥はさらに工作を進め、甥とマリー・アンヌの関係を終わらせ、王が彼女へ傾倒するよう後押ししました。

地位の確立と権力の掌握

しかし、マリー・アンヌは単なる駒ではありませんでした。姉たちの前例を研究し、いかにして自らの地位を盤石なものとするかを深く考えていた彼女は、王の求愛に対し、まずルイズ・ジュリーの追放を要求しました。そして、一度は王からの申し出を退けるという強硬な態度に出た後、自身の立場を保証するための具体的な条件を提示しました。これには、広大な邸宅や高価な宝石といった財産の贈与、より高位な身分と地位の獲得、そして王との間に子が生まれた場合の嫡出子としての認知などが含まれていました。王はこれらの要求を全て受け入れ、彼女にシャトールー公爵領を与えたことで、彼女はシャトールー公爵夫人として知られるようになります。

シャトールー公爵夫人となったマリー・アンヌは、王の公妾として計り知れない権力を手に入れました。彼女はジャン＝フレデリック・フェリポー・ド・モールパ伯爵やアンドレ＝エルキュール・ド・フルーリーといった当時の有力大臣たちと敵対し、彼らの失脚を画策しました。さらに、政治への関心を失っていた王に対し、自らが国政を主導するよう強く働きかけました。気乗りしない王は「あなたに殺されてしまいますよ」とこぼしながらも、多少は執務に向かうようになったと言われています。

オーストリア継承戦争がフランスにとって不利に進む中、彼女はリシュリュー元帥と連携し、王に前線へ赴いて軍の士気を高めるよう盛んに促しました。彼女とリシュリューの間には、王を動かすための多くの書簡が交わされています。彼女の影響力は外交にも及び、プロイセン王フリードリヒ大王からの働きかけを受け、一度はプロイセン側から破棄されかけたフランスとの同盟維持を王に進言しました。

一時的な失脚と劇的な復帰

王がフランドルおよびアルザスの前線へ遠征した際、マリー・アンヌも同行を強く望みましたが許されませんでした。しかし、王と離れることに不安を募らせた彼女は、口実を設けて無許可で王の滞在先へ駆けつけました。そこで王から温かく迎え入れられたことで、彼女の地位は揺るぎないものに見えましたが、直後に王が重い病に倒れ、危篤状態に陥ります。弱気になった王は、呼び寄せた聖職者たちの勧めに従い、愛妾である彼女にその地から離れるよう命じました。彼女は指示に従いフランスへ戻りましたが、王の回復を強く信じて待機しました。リシュリュー元帥から期待しすぎないよう忠告されても、王が健康を取り戻せば必ず自分を求めるだろうと返信しています。結果はその通りとなり、回復した王は、自身に愛妾との関係を懺悔させた司教を辺境に追いやる一方、マリー・アンヌを再び宮廷に呼び寄せました。

突然の死と毒殺説

ヴェルサイユへの帰還に際し、マリー・アンヌは自分に反対していた複数の役職者の解任を求め、特にモールパ伯爵の追放を強く要求しました。王はモールパの能力を高く評価していたためこの要求は退けられましたが、代わりにモールパ自身が王の代理として彼女を迎えに行くという役目を与えました。勝ち誇った様子のマリー・アンヌは、モールパの出迎えを受け、数日後に宮廷へ戻る意向を示しましたが、その直後、体調が急変し、激しい苦しみの末、1744年12月に急死しました。

まだ若かった彼女の突然の死は、当時、モールパ伯爵による毒殺説を強く呼び起こしました。現代ではその説は否定されていますが、後に台頭したポンパドゥール夫人がモールパを恐れるよう仕向けるため、モールパ自身が「マリー・アンヌを殺したのは自分だ」と周囲に吹聴したという話も伝わっています。

マリー・アンヌの死後、王はいつものように、しばらくは公妾の死に沈痛な様子を見せましたが、すぐに新たな愛妾を探し始めました。ローラゲー公爵夫人の名も挙がりましたが、最終的に王の心を捉えたのは、既にパリの社交界で注目を集めていたブルジョワ出身の女性、ポンパドゥール夫人でした。

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