マルクス・エリエゼル・ブロッホ

マルクス・エリエゼル・ブロッホ：18世紀を代表する魚類学者

マルクス・エリエゼル・ブロッホ (1723年-1799年) は、18世紀ドイツで活躍した医師にして博物学者です。彼は、今日の魚類学の基礎を築いた人物の一人として知られており、その業績は現在も高く評価されています。

困難な生い立ちと知識への渇望

ブロッホはアンスバッハで貧しいユダヤ人の家庭に生まれました。経済的な困難から十分な教育を受けることができず、19歳になるまでドイツ語を読むことすらできませんでした。しかし、彼は並外れた知的好奇心と学習意欲を持っていました。

転機は、ハンブルクの医師の家にヘブライ語教師として雇われた時でした。そこで、ドイツ語やラテン語を習得し、解剖学にも触れる機会を得ます。この経験を通じて自然科学への関心を深め、親戚を頼ってベルリンに移り住み、熱心に自然科学の学習を続けました。

博物学者としての活躍と主要著作

ベルリンで医学の学位を取得した後、ブロッホは医師として働きながら、博物学の標本や文献を収集し始めました。彼の最初の論文は動物の寄生虫に関するもので、コペンハーゲン科学アカデミーから賞を受賞するなど、早くからその才能を発揮しました。

ブロッホの最も重要な業績は、1782年から1795年にかけて12巻にわたって出版された『魚類の一般自然史 (Allgemeine Naturgeschichte der Fische)』です。この大著は、当時の科学水準をはるかに超えた精密な図版を多数含んでおり、科学的な価値だけでなく、美術的な価値も高いと評価されています。

この著作の最初の3巻では、ドイツに生息する魚類とその利用法について詳細に記述され、残りの巻では、世界各地の魚類が網羅されています。ブロッホは自ら標本を集めるだけでなく、インドなど遠隔地で活動していた宣教師、クリストフ・サミュエル＝ジョンらからも標本を提供してもらっていました。最初の巻は自費出版でしたが、その後はベルリンの裕福な人々からの支援を受けて刊行を続けました。

未完成の遺志とその後

ブロッホはヨハン・ゴットロープ・テアエヌス・シュナイダーと共同で、『110の画像付分類魚類学 (Systema ichthyologiae iconibus CX illustratum)』の刊行を始めましたが、これは未完に終わりました。しかし、シュナイダーによって死後に出版されています。

ブロッホが収集した膨大な魚類標本は、ベルリン動物博物館（現在のフンボルト博物館）に収蔵され、同博物館の最も古いコレクションの一つとして、18世紀最大の魚類標本コレクションとされています。彼の功績を称え、ニザダイ科の魚の一種には彼の名を冠した学名 Acanthurus blochii が付けられています。

晩年とその後

晩年は健康を害し、療養先のカールスバートで亡くなりました。しかし、彼の残した仕事は、後の魚類学研究に多大な影響を与え続けました。ブロッホの生涯は、困難な環境を克服し、並外れた情熱と努力で大きな成果を上げた、稀有な博物学者の物語として、後世に語り継がれています。彼の集めた標本は、現在も研究者によって活用され、18世紀の自然科学史を語る上で貴重な資料となっています。

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