マルク・タイマノフ

マルク・エフゲニエヴィチ・タイマノフは、1926年2月7日にウクライナのハルキウで生を受け、2016年11月28日にサンクトペテルブルクでその生涯を終えました。

彼は生涯を通じて、クラシック音楽における輝かしいピアニストとしてのキャリアと、チェスにおける頂点を極めたプレーヤーとしてのキャリアという、極めて対照的ながらも非凡な二つの道を歩みました。

タイマノフは生後わずか半年で家族と共にレニングラード（現在のサンクトペテルブルク）へ移り住みました。幼い頃からピアニストであった母親の手ほどきを受け、音楽の才能を開花させます。10歳になる頃には、すでに名門レニングラード音楽院への入学を許されるほどの技量を持っていました。在学中には、偶然にも映画『ベートーヴェンの協奏曲』の主演に抜擢され、俳優としてもスクリーンに登場するという珍しい経験もしています。音楽院では、著名なサマリ・サヴチンスキー教授のもとで研鑽を積み、深い音楽性と演奏技術を身につけました。

音楽院での学びの中で、タイマノフは後に最初の妻となる同じくピアニストのリューボフ・ブルックと出会います。師であるサヴチンスキーの勧めもあり、二人はピアノ・デュオを結成し、共に音楽の道を歩むことになります。1948年に音楽院を卒業してからは、このデュオを中心に演奏活動を精力的に行い、その息の合ったアンサンブルと芸術性は国内外で高く評価されました。

一方で、音楽活動と並行して、タイマノフはチェスの世界でもその才能を遺憾なく発揮しました。建築エンジニアでありながら熱心なアマチュアチェスプレーヤーであった父親の影響を受け、幼い頃からチェスに親しんでいました。その理解力と戦略眼は目覚ましく、16歳という若さでチェスのマスター称号を得るに至ります。その後も実力を磨き続け、1956年にはソ連選手権で優勝を果たし、ソビエト連邦国内のトッププレーヤーとしての地位を確立しました。

彼のチェスキャリアにおいて最も広く知られている出来事の一つに、1971年の世界選手権挑戦者決定戦の準々決勝で、後に伝説となるアメリカのボビー・フィッシャーと対戦したことがあります。この対局でタイマノフはフィッシャーにストレートで敗れ、この結果はチェス界に大きな衝撃を与えました。しかし、この敗北は彼のチェスにおける業績全体の価値を損なうものではありません。

マルク・タイマノフの人生は、ピアニストとして舞台に立ち、聴衆を魅了する一方で、チェス盤の前で深い思考を巡らせるという、二つの異なる極みを追求した点で極めてユニークでした。二つの分野でプロフェッショナルとして国際的な認知を得た人物は他に類を見ません。彼の生涯は、才能の多様性と、情熱を持って追求することの可能性を体現していました。

晩年も音楽とチェスへの関心は衰えることなく、サンクトペテルブルクにて活動を続けました。2016年に90歳で永眠するまで、彼は二つの世界を股にかけた稀代の才能として、多くの人々に記憶されています。

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