マルク＝アントワーヌ・マチュー

マルク＝アントワーヌ・マチューは、1959年生まれのフランスのバンド・デシネ作家（漫画家）です。アンジェ美術院で学んだ後、グラフィックデザインと空間デザインのアトリエ「Lucie-Lom」を設立し、展示会などのデザインを手がけました。1986年にバンド・デシネ作家としてデビューし、1987年には兄ジャン＝リュックとの共作で最初のアルバム『パリ・メイソン』を出版しました。

1991年には、『起源』でアングレーム国際バンド・デシネフェスティバルの新発見賞を受賞。この作品は『夢の囚われ人 ジュリアス・コランタン・アクファック』として全6巻でシリーズ化され、第3巻『プロセス』も1994年の同フェスティバルで最優秀シナリオ賞を受賞しました。さらに、2010年には『神ご自身』でACBD批評グランプリを受賞しています。

作風

マチューの作風は、はっきりとした描線と明暗を強調したモノクロームが特徴です。ウバポ（潜在的漫画工房）に通じる実験的な要素も多く、代表作である『夢の囚われ人 ジュリウス・コランタン・アクファック』シリーズでは、主人公が物語の登場人物であることを自覚しているというメタフィクション的な設定を基盤としています。各巻ごとに、入れ子構造（第1巻）、漫画的同質性の破壊（第2巻）、ループ（第3巻）、回文的構成（第4巻）、遠近法の破壊（第5巻）といった、図像的・言語的な実験が展開されています。

また、『3秒』では、サッカー界のスキャンダルに関連して起こるわずか3秒間の出来事を、連続的なクローズアップの手法を用いて600コマで表現するという、独創的な試みがなされています。

主な作品

シリーズ作品

夢の囚われ人 ジュリウス・コランタン・アクファック(Julius Corentin Acquefacques, Prisonnier des Rêves、1990年-2013年、全6巻)
起源(L'Origine) 1990年
ク…(La Qu...) 1991年
プロセス(La Processus) 1993年
終わりの始まり(La Début de la Fin) 1995年
2,333次元(La 2,333e Dimension) 2004年
ずれ(La Décalage) 2013年

単巻作品

パリ・メイソン(Paris-Mâcon、兄ジャン＝リュックとの共作、1988年)
突然変異(La Mutation、1995年)
影の心臓(Le Cœur des Ombres、1998年)
死んだ記憶(Mémoire Morte、2000年)
デッサン(Le Dessin、2001年)
画家トゥオラン(Le Peintre Touo-Lan、2004年)
上昇とその他の物語(L'Ascension et Autre Récits、2005年)
レヴォリュ美術館の地下―ある専門家の日記より(Les Sous-Sols du Révolu: Extrait du Journal d'un Expert、2006年)
シンメトリーな車(La Voiture Symétrique、2007年)
神ご自身(Dieu en Personne、2009年)
3秒(3"、2011年)
ラビュリントゥム(Labyrinthum、2013年)
方向(→(S.E.N.S)、2014年)
オットー 書き換えられた男(Otto: L'Homme Réécrit、2016年)




日本での出版

『レヴォリュ美術館の地下―ある専門家の日記より』(大西愛子訳、小学館集英社プロダクション、2011年)
『3秒』(原正人訳、河出書房新社、2012年)
『神様降臨』(古永真一訳、河出書房新社、2013年)※「神ご自身」の翻訳版。

マチューの作品は、バンド・デシネの表現の可能性を広げる実験的な試みと、独特の世界観で、多くの読者を魅了し続けています。

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