マルコム・グレーザー

マルコム・アービング・グレーザー（Malcolm Irving Glazer, 1928-2014）は、アメリカ合衆国を代表する実業家であり、プロスポーツチームのオーナーとして知られています。特に、NFLのタンパベイ・バッカニアーズを所有し、イングランド・プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドFCの経営権を掌握したことで広くその名を知られています。

略歴

1928年5月25日、ユダヤ系移民の家庭に7人兄弟の5番目としてニューヨーク州ロチェスターに生まれたグレーザーは、父が営む宝石販売業を若くして引き継ぎました。事業家としての才能を開花させた彼は、1970年代にはフロリダ州を中心に複数のトレーラーパーク運営会社を所有することから事業を拡大していきます。食品加工、船舶用品、ヘルスケア、不動産、資源探査、放送業など、その事業分野は多岐にわたり、多くの企業の最高経営責任者を務めました。グレーザーは着実にビジネスグループを構築し、彼の6人の子供のうち3人が事業の要職に就き、ショッピングセンターや老人ホームといった分野にも進出するなど、ファミリービジネスとしての性格も強めていきました。しかし、2006年には脳卒中に見舞われ、その後は体調を崩すことも多くなりました。2014年5月28日、86歳でその生涯を閉じました。

スポーツチームのオーナーとして

グレーザーは、特にプロスポーツチームのオーナーとして世間の注目を集めました。彼のオーナーシップは、NFLのタンパベイ・バッカニアーズと、世界的に有名なサッカークラブ、マンチェスター・ユナイテッドFCという二つの主要なクラブに及びました。

タンパベイ・バッカニアーズ

1995年、グレーザーは1億9200万ドルを投じてNFLのタンパベイ・バッカニアーズを買収しました。買収後すぐに、彼は当時のホームスタジアムであるタンパ・スタジアムが時代遅れであると主張し、新たなスタジアム建設を巡る地元自治体との交渉を開始しました。当初は他の都市への移転も示唆しましたが、最終的にはタンパ市が地方消費税を財源として約2億ドルを投じ、最新鋭のレイモンド・ジェームス・スタジアムを建設することで合意に至りました。建設費用を地元が負担し、クラブにとって有利な長期リース契約が結ばれたことから、バッカニアーズの資産価値は飛躍的に上昇し、買収額の数倍に達したと評価されました。このスタジアムの改善を追い風に、チームの成績も向上し、グレーザーのオーナーシップ下でチームは1997年にプレイオフに進出、1999年にはNFCチャンピオンシップに進み、そして2002年シーズンにはクラブ史上初となるスーパーボウル制覇という輝かしい成功を収めました。

しかし、2003年にマンチェスター・ユナイテッドFCの経営権取得に乗り出した頃から、バッカニアーズの状況は変化し始めます。選手の年俸を低く抑え続けたことから、チームは低迷期に入り、これはマンチェスター・ユナイテッド買収のためにバッカニアーズが財政的に犠牲にされているのではないかという地元ファンやメディアからの強い批判を招きました。さらに、タンパ周辺地域の経済状況の悪化に伴いチケットの売れ行きが低迷し、一時期はNFLのブラックアウトルールが適用され、地元で試合のテレビ中継が視聴できない事態も発生しました。

マンチェスター・ユナイテッドFC

2003年から2005年にかけて、グレーザーはイングランドの強豪サッカークラブ、マンチェスター・ユナイテッドFCの株式を段階的に買い進め、最終的に約14億7000万ドルを投じて経営権を掌握しました。しかし、この買収資金の大部分は、マンチェスター・ユナイテッド自体の資産を担保とする高利息の借入金で賄われたため、買収前は健全な財政状況だったクラブは一変、巨額の負債を抱えることになりました。その後の金融危機もクラブの資金繰りをさらに悪化させました。

この、クラブに多額の負債を負わせる形での買収手法は、サポーターや関係者からの強い反発を招きました。ファンたちは、グレーザー一家によるクラブ支配に反対する様々な抵抗運動を展開しました。これには、クラブの買戻しを目指す運動や、グレーザー一家の経営に反対するファンが新たに創設した別チーム「FCユナイテッド・オブ・マンチェスター」の活動、そしてクラブ創設当時のチームカラーである緑と黄色のスカーフを身につけて観戦するという象徴的な抗議活動などが含まれます。

マルコム・グレーザーは、卓越した事業手腕で広範なビジネス帝国を築き上げ、スポーツ界においても大きな成功と同時に、その手法を巡る激しい論争を引き起こした人物でした。彼の死後も、スポーツチームの経営は子供たちによって引き継がれています。

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