マルセル・ヤコブ

スウェーデンが生んだ卓越したベーシスト、マルセル・ヤコブ（Marcel Jacob、1964年 1月30日 - 2009年7月21日）は、ハードロック及びヘヴィメタル界において、その確かな演奏技術と作曲センスで名を馳せたミュージシャンである。特にイングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォースへの参加で注目を浴びた後、自身が率いるバンド「タリスマン」を核として、多岐にわたる音楽プロジェクトで精力的に活動を展開した。しかし、その輝かしいキャリアは、惜しくも45歳という若さで幕を閉じることとなった。

来歴

マルセル・ヤコブのキャリアは1979年に始まる。まだ黎明期のイングヴェイ・マルムスティーンと共に「ライジング・フォース」を結成し、初期の音楽活動をスタートさせた。1982年には、後のヨーロッパとなるバンド、Forceに短期間在籍したほか、Powerといったバンドでも活動を重ねる。

1984年、再びマルムスティーンからの誘いを受け、ライジング・フォースに復帰。翌1985年には歴史的なアルバム『マーチング・アウト』の制作に携わり、それに続くツアーにも参加した。この時期の活動は、彼の名前を世界中のロックファンに知らしめる重要な契機となった。しかし、バンド内部での金銭的な意見の相違から、彼は再びライジング・フォースを脱退する。この一件はイングヴェイ・マルムスティーンの怒りを買い、彼の代表曲の一つである「ライアー」（アルバム『トリロジー』収録）のモチーフになったと言われている。

だが、この脱退が両者の関係を完全に断ち切ったわけではなかった。その後も1996年のアルバム『インスピレーション』への参加や、1999年のFrankfurt music Fair、ストックホルムでのシークレットライブ、2000年に行われたスウェーデン短期ツアーなど、散発的にマルムスティーンとの共演は実現している。しかし、残念ながらここでも金銭に関する軋轢が再燃するなど、両者の関係は最後まで複雑な様相を呈した。

特に2002年には、彼らがスウェーデン滞在中に録音されたとされる未発表デモ音源集「Birth of the Sun」をリリース。これに対しマルムスティーンは明確な不快感を表明し、対抗するかのように公式の未発表デモ音源「The Genesis」を発表した。この出来事により、長年にわたる両者の溝は決定的なものとなったと考えられている。

ライジング・フォースを脱退した1985年以降、マルセル・ヤコブはスウェーデンに帰国し、ジャズ・ロック・バンド、Wasa Expressの1986年の再結成ツアーに参加するなど、活動の幅を広げる。同年末には、ヨーロッパを脱退したギタリスト、ジョン・ノーラムのソロ・デビュー・アルバム『トータル・コントロール』に全面的に参加し、それに続くツアーも敢行した。ところが、ソロ第2作の制作段階でマネージメントを巡るトラブルが発生し、この協力関係も長くは続かなかった。

だが、ジョン・ノーラムとの作業の中で未消化となった楽曲の素材を、ヨラン・エドマンら他のミュージシャンと共に形にする過程で、奇しくも旧知のボーカリスト、ジェフ・スコット・ソートとの再会が実現する。この運命的な出会いが、後に彼を代表するバンドとなる「タリスマン」の結成へと繋がったのである。

タリスマンはマルセル・ヤコブの作曲センスとジェフ・スコット・ソートの歌唱力が融合し、メロディックで力強いサウンドを確立。多くのアルバムを発表し、根強い人気を獲得した。それ以降はタリスマンを中心に、ヒューマン・クレイをはじめとするジェフ・スコット・ソートとの活動を軸としながら、ラスト・オータムズ・ドリームなど、ジャンルを超えた多岐にわたる音楽プロジェクトに積極的に参加し、精力的な活動を続けた。彼のベーシストとしてのスキル、楽曲の構築力、そして他のミュージシャンとのケミストリーを生み出す才能は、数多くの作品に刻み込まれている。

しかし、2009年7月21日、マルセル・ヤコブは残念ながら45歳という若さで自ら命を絶った。彼の盟友であるジェフ・スコット・ソートは、追悼の意を込めたコメントの中で、彼が数年前から健康に問題を抱えていたことを示唆している。あまりにも早すぎるその死は、世界の音楽ファンに大きな衝撃を与えた。

ディスコグラフィ（一部抜粋）

タリスマン
『タリスマン』 (1990)
『ジェネシス』 (1993)
『ファイブ・アウト・オブ・ファイブ』 (1994)
『ヒューマニマル』 (1994)
『ヒューマニマル・パート2』 (1994)
『ライフ』 (1995)
『トゥルース』 (1998)
『キャッツ・アンド・ドッグス』 (2003)
Live at the Sweden Rock Festival 2001 (2001)
The World's Best kept Secret (2005)
『7』 (2006)
ヒューマン・クレイ
『ヒューマン・クレイ』 (1996)
『ユーフォリア』 (1997)
Closing the book on Human Clay (2003)
イングヴェイ・マルムスティーン
『マーチング・アウト』 (1985)
『インスピレーション』 (1996)
ジョン・ノーラム
『トータル・コントロール』 (1987)
『ライヴ・イン・ストックホルム』 (1990)
ラスト・オータムズ・ドリーム
『II』 (2005)
『ウィンター・イン・パラダイス』 (2005)
『サターン・スカイライン』 (2006)
その他主要プロジェクト
Eyes - Eyes (1990)
Billionaires Boys Club - Something Wicked Comes (1993)
ミザリー・ラブズ・カンパニー - 『ミザリー・ラブズ・カンパニー』 (1995)
Meldrum - Loaded Mental Cannon (2001)
Radioactive - Yeah! (2003)
* スペース・オデッセイ - 『エンブレイス・ザ・ギャラクシー』 (2003)

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