マーチング・アウト

『マーチング・アウト』：イングヴェイ・マルムスティーンの音楽的主張を打ち出したセカンドアルバム

イングヴェイ・マルムスティーンのネオクラシカルメタルは、1984年のデビューEP『ライジング・フォース』で世界の音楽シーンに衝撃を与えました。その勢いを駆って、翌1985年に彼のソロプロジェクトであるイングヴェイ・マルムスティーンズ・ライジング・フォース名義で発表されたのが、セカンド・スタジオ・アルバムにあたる『マーチング・アウト』（Marching Out）です。

制作背景と参加ミュージシャン

本作の制作には、前作『ライジング・フォース』ですでにその実力を存分に発揮していたボーカリスト、ジェフ・スコット・ソートと、後に多くのバンドで活躍するキーボーディスト、イェンス・ヨハンソンが引き続き参加しました。さらに、バンドのサウンドを支える新たなメンバーとして、イェンスの兄であり、パワフルで正確なドラミングで知られるアンダース・ヨハンソンがドラマーとして加わります。ベーシストには、かつてイングヴェイが無名時代に共に音楽活動を行った縁のあるマルセル・ヤコブが迎え入れられ、この強力な布陣でアルバムは完成されました。

特にイングヴェイ自身は、前作がレコード会社の販売戦略上の判断でインストゥルメンタル主体の構成となったことに必ずしも満足していなかったとされています。そのため、彼は本作こそを自身の音楽的方向性を真に反映した「実質的なファースト・アルバム」として位置づけ、ボーカル入りの楽曲を大幅に増やしたのです。これにより、メロディアスなボーカルラインとイングヴェイの超絶的なギタープレイ、そして強固なリズムセクションとキーボードによる厚みのあるサウンドが融合した、バンドとしての完成度を高めた作品となりました。

音楽性と楽曲の方向性

『マーチング・アウト』の最も大きな特徴は、前作『ライジング・フォース』がインストゥルメンタル中心だったのに対し、ジェフ・スコット・ソートによる力強いボーカルがフィーチャーされた楽曲が多数を占める点です。これにより、ネオクラシカルな要素は維持しつつも、よりハードロックやヘヴィメタルアルバムとしての明確な性格を持つようになりました。

音楽評論家のスティーヴ・ヒューイは、オールミュージックでのレビューにおいて、この変化を的確に捉え、『ライジング・フォース』と比較して本作を「わずかに生々しく、そして攻撃的」と評しています。彼が指摘するように、歌詞を持つ楽曲が増えたことは、より多くのリスナーにとって音楽への入り口を広げる大きな要素となったと言えるでしょう。収録曲リスト自体はここでは詳細に触れませんが、アルバム全体を通して、構築された楽曲構成の中に、イングヴェイの縦横無尽なギターソロが織り込まれており、その高い演奏技術を存分に堪能できる内容となっています。

各国で異なるジャケットデザイン

本作は、発売された地域によって全く異なるジャケットデザインが採用された点でも特筆されます。ヨーロッパ盤LPでは、イングヴェイ・マルムスティーンの険しい表情のクローズアップ写真が使われ、彼のパーソナリティを前面に押し出したデザインとなっていました。一方、日本の初回盤LPでは、レオタード姿でギターを持つ女性の写真が大胆に使用され、当時の日本のロックシーンにおける視覚的トレンドを反映したかのような、独自のデザインが採用されました。さらに、アメリカ初回盤LPでは、イングヴェイの全身を捉えたポートレート写真が使われ、それぞれの国で異なるイメージ戦略が展開されたことが伺えます。

その後のCD化や再発の際には、ヨーロッパ盤のデザインが踏襲されるケースが多いですが、2007年に発売された日本盤の紙ジャケットCDでは、アメリカ初回盤LPと同じジャケットデザインが復活し、ファンを喜ばせました。また、近年では、2015年にAndy Peaceによるリマスター音源を収録したコンピレーション『Now Your Ships Are Burned: The polydor years 1984-1990』が登場し、翌2016年にはこの優れたリマスター音源を使用した国内盤『マーチング・アウト+2』がリリースされるなど、現在もその音源は聴き継がれています。

商業的成功と評価

商業的な成功もまた、『マーチング・アウト』の重要な側面です。日本では、1985年8月1日にポリドールからLP盤（カタログ番号28MM-0420）としてリリースされ、オリコンLPチャートにおいて合計5週間にわたってチャートインし、最高順位18位を記録しました。これは、当時日本のヘヴィメタルシーンでマルムスティーンが確立しつつあった人気を示す結果と言えるでしょう。

彼の母国であるスウェーデンでは、さらに顕著なチャートアクションを見せました。1985年9月6日付のアルバム・チャートに初登場27位でランクインすると、わずか2週間後の次回チャート発表時には一気に順位を上げ、自己最高位、そして自身にとってキャリア初となるトップ10入り（9位）を果たしたのです。この成功は、イングヴェイ・マルムスティーンが国際的なアーティストとしての地位を確固たるものにする上で、大きな推進力となりました。

このように、『マーチング・アウト』は、イングヴェイ・マルムスティーンが自身の音楽的主張をより前面に押し出し、国際的な成功への道を切り拓いた、そのキャリアにおいて極めて重要な位置を占める作品であると言えます。

もう一度検索