マルティン・ディベリウス

マルティン・ディベリウス (1883-1947) は、20世紀における新約聖書研究に多大なる影響を与えたドイツの神学者です。ドレスデン出身の彼は、新約聖書学の巨匠ヘルマン・グンケルの薫陶を受け、後の盟友となるルドルフ・ブルトマンと共に研鑽を積みました。

彼は複数の大学で学び、高度な神学的研究を深めた後、ハイデルベルク大学において新約聖書釈義の教授職に就任します。このハイデルベルク大学での教授時代が、彼の研究人生における最も重要な時期でした。

ディベリウスの学問的業績の中でも特に重要なのが、1919年に発表された『福音書の様式史的研究』(Die Formgeschichte des Evangelium)です。この著作において、彼は新約聖書における個々の物語（パラーレレス）の成立過程に着目し、それらの物語が口承伝承を経て、どのように形成され、福音書に編纂されていったのかを詳細に分析しました。この分析手法は、のちに「様式史的批評」と呼ばれる新たな学問分野の礎となり、聖書研究の方法論に大きな変革をもたらしました。

ディベリウスの様式史的研究は、聖書研究において従来の解釈方法とは異なる視点を取り入れることによって、福音書成立の複雑な歴史的過程を明らかにする試みでした。それまでの聖書研究が主にテキストの字義的解釈に重点を置いていたのに対し、ディベリウスは、個々の物語の起源や伝承過程、そしてそれらが福音書編纂者にどのように受け継がれてきたのかを丁寧に解き明かしていきました。彼の研究は、聖書テキストの背後にある歴史的・文化的な背景を理解する上で極めて重要な示唆を与えました。

しかしながら、ディベリウスの研究は、ブルトマンの1921年の著作『共観福音書伝承の歴史』によってさらに発展させられることになります。ブルトマンはディベリウスの研究を土台に、より広範な研究を展開し、様式史的批評という分野を確立、発展させました。ブルトマンはディベリウスよりも大きな影響力を持つようになり、様式史研究は広く受け入れられるようになりました。

ディベリウスは、生涯を通して新約聖書の解明に情熱を注ぎ、その研究成果は後世の聖書学者たちに大きな影響を与え続けました。彼の功績は、単に新約聖書研究における方法論の革新にとどまらず、聖書解釈全体への新たな視点をもたらした点にあります。彼の研究は、聖書テキストをより深く理解し、その背後にある歴史的、文化的な文脈を解き明かしていくための重要な指針となったのです。

1947年、ディベリウスはハイデルベルクにて生涯を閉じました。しかし、彼の残した研究は、今日でも世界中の聖書学者によって研究され、高く評価されています。彼の『福音書の様式史的研究』は、新約聖書研究の古典として、現在もなお多くの研究者にとって重要な参考文献であり続けています。ディベリウスの業績は、新約聖書の解釈方法に革命的な変化をもたらし、現代の新約聖書研究の基礎を築いたと言えるでしょう。

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