マルトース

マルトース（麦芽糖）

マルトース、または麦芽糖は、大麦などの穀物に含まれるデンプンを原料として生成される二糖類です。その名の通り、麦芽（モルト）に多く含まれていることから名付けられました。麦芽に含まれるβ-アミラーゼという酵素がデンプンを分解することでマルトースが生成されます。この酵素反応は60℃前後で最も活発であり、この温度帯では微生物の繁殖が抑制されるため、糖化のみが進行し、腐敗することなく効率的にマルトースを得ることができます。

化学的性質

化学的には、グルコース（ブドウ糖）2分子がα-1,4-グリコシド結合によって結合した構造をしています。これはデンプンの直鎖部分と同一の構造です。化学式はC₁₂H₂₂O₁₁です。還元性を示す二糖類であり、水飴の主成分として知られています。デンプンやグリコーゲンなどの多糖類は、α-アミラーゼ（唾液や膵液に含まれる消化酵素）やβ-アミラーゼの作用によってマルトースに分解されます。一方、γ-アミラーゼはマルトースを生成せず、グルコースを生成します。
生成されたマルトースは、α-グルコシダーゼという酵素や酸によって、グルコース2分子に分解されます。

物理的性質

分子量: 342.30
融点: 102～103℃（1水和物）、108℃（無水物）
比旋光度: [α]D +111.7°～+130.4°（1水和物）、[α]D +123°（無水物）
味: ショ糖（スクロース）のおよそ1/3程度の甘味

用途と応用

マルトースは、その特性から様々な用途に利用されています。

糖尿病治療薬: α-グルコシダーゼの働きを阻害することで、食後の血糖値上昇を抑える効果があるため、糖尿病治療薬の成分として用いられています。代表的な薬剤としては、ベイスン、ベイスンOD、グルコバイ、セイブルなどが挙げられます。

輸液剤: 急激な血糖値の上昇を防ぐために、グルコースではなくマルトースを含む輸液剤が用いられています。ソルラクトTMR、ポタコール、マレントール、ラクトリンゲルM、アクチットなどがその例です。

* 食品添加物: マルトースは、グルコースに比べてメイラード反応を起こしにくく、加熱による着色も少ないという特徴があります。また、結晶化しにくい性質も持ち合わせています。そのため、キャンディー、アイスクリームなどの菓子類や、佃煮などの食品の甘味料として、ショ糖の代替として用いられることがあります。グルコースとは異なる風味も、マルトースの利点の一つです。

まとめ

マルトースは、その独特の性質と機能から、医薬品から食品まで幅広い分野で利用されている重要な糖質です。 今後ますますその利用範囲は広がっていくと予想されます。

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