マルフリート・ファン・オラニエ＝ナッサウ

オランダ王女マルフリート

マルフリート・フランシスカ・ファン・オラニエ＝ナッサウ王女は、1943年1月19日にお生まれになった、オランダの元女王ユリアナ陛下とベルンハルト王配殿下の第三王女です。姉には前女王ベアトリクス陛下、そしてイレーネ王女、妹にはクリスティーネ王女がおられます。現在の国王ウィレム＝アレクサンダー陛下の叔母にあたり、2025年2月4日時点では、王位継承順位において最下位の第8位に位置しています。

戦禍の中での誕生

王女のご誕生には、第二次世界大戦という特殊な背景がありました。1940年6月、ナチス・ドイツがオランダを占領したことを受け、ウィルヘルミナ女王陛下の推定相続人であったユリアナ王女をはじめとする王室一家は、安全のためカナダへと避難していました。マルフリート王女は、この避難生活中にカナダの首都オタワにあるオタワ市民病院で誕生されました。

特筆すべきは、ご誕生に際してカナダ政府がとった異例の措置です。カナダは出生地主義を採用しており、国内で生まれた子には自動的にカナダ国籍が付与されます。しかし、当時のオランダは二重国籍を原則として認めておらず、カナダ国籍を持つとオランダ国籍を喪失する可能性がありました。万が一、生まれてくる子が男子であり、当時の男子優先の王位継承順位において姉たちより上位になるような場合、オランダ国籍の喪失は深刻な問題となります。このような事態を避けるため、カナダ政府はユリアナ王女が滞在していた病室を一時的に治外法権とし、カナダの領土外であると宣言しました。これにより、病室は法的にどの国にも属さない国際的な領域として扱われ、王女がカナダ国籍を取得することなく、確実にオランダ国籍のみを持つことが可能となったのです。

病室が「オランダ領と宣言された」という話が広く知られていますが、これは誤解です。オランダの国籍法は主に血統主義に基づいているため、オランダ国籍を持つ者の子は、どこで生まれてもオランダ国籍を得ることができます。したがって、病室をオランダ領とする必要はありませんでした。

このカナダ政府の厚意に対し、オランダ王室は感謝の意を示すため、現在に至るまで毎年オタワ市にチューリップの球根を贈呈しています。このチューリップは、オタワ名物のひとつとなっています。

王女のお名前「マルフリート」は、第二次世界大戦中、ナチス・ドイツへの抵抗のシンボルとして人々が身につけた花である「フランスギク」(margriet)にちなんで名付けられました。ご洗礼は、1943年6月29日にオタワのセント・アンドリュー長老派教会で行われました。代父母には、当時のアメリカ合衆国大統領フランクリン・D・ルーズベルト、イギリスのメアリー王太后、ノルウェーのマーサ王太子妃、そしてユリアナ王女のカナダでの女官であったマルティーヌ・ルエルが名を連ねました。

戦後とご家族

1945年8月、オランダが解放されると、マルフリート王女はご家族とともに故国への帰還を果たされました。ユリアナ王女とベルンハルト王配は、戦前暮らしていたバールンのスーストデイク宮殿に戻られました。

成人後、マルフリート王女はライデン大学で学ばれ、そこで将来の夫となるピーテル・ファン・フォレンホーフェン氏と出会われました。お二人の婚約は1965年3月10日に発表され、1967年1月10日にハーグの大聖ヤコブ教会で結婚式が執り行われました。この結婚に際し、お二人の間に生まれた子供たちは「ファン・オラニエ＝ナッサウ・ファン・フォレンホーフェン」の称号を名乗ることが定められました。ご夫妻には、マウリッツ王子（1968年4月17日生）、ベルンハルト王子（1969年12月25日生）、ピーテル＝クリスティアーン王子（1972年3月22日生）、フロリス王子（1975年4月10日生）の4人の息子がおられます。

現在、マルフリート王女とピーテル・ファン・フォレンホーフェン氏は、アペルドールンにあるヘット・ロー宮殿にお住まいです。

公的なご活動

マルフリート王女は、長年にわたり様々な公的な役割を果たしてこられました。

オランダ赤十字社: 1987年から2011年まで副総裁を務められ、王女の名を冠した「マルフリート王女基金」を設立されました。また、国際赤十字赤新月社連盟の理事としても活動されました。
ヨーロッパ文化財団: 1984年から2007年まで会長を務められました。財団は、王女のご功績を称え、「マルフリート王女文化多様性賞」を創設しています。
* 国際パラリンピック委員会: 名誉委員を務められています。

これらの活動を通して、マルフリート王女は人道的支援、文化交流、そして障がい者スポーツの振興に貢献されています。

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