マルマライ

マルマライ：イスタンブールの地下を貫く、150年の夢

イスタンブール、アジアとヨーロッパを繋ぐ世界有数の都市。その発展を阻んできたのが、ヨーロッパとアジアを分断するボスポラス海峡でした。橋やフェリーは存在するものの、急増する人口と経済発展は交通渋滞を深刻化させ、都市機能の大きな課題となっていました。

この問題を解決すべく、トルコ政府は国家プロジェクト「マルマライ」を推進しました。これは、ボスポラス海峡を海底トンネルで貫通させ、イスタンブールのヨーロッパ側とアジア側を鉄道で繋ぐ壮大な計画です。計画自体はオスマン帝国時代から構想されており、長年に渡り技術面や政治的な理由から頓挫してきましたが、21世紀に入り、遂に実現することになります。

海底トンネルの建設：技術の粋を集めて

マルマライの中核をなすのは、全長約13.6kmに及ぶボスポラス海峡海底トンネルです。このトンネルは、11個の巨大な函体を海底に沈設する「沈埋工法」という高度な技術を用いて建設されました。最大水深約60m、強大な海流にも耐えうる高い技術力が求められる過酷な環境下での作業でした。

大成建設を始めとする日系企業やトルコ企業が共同で施工を行い、2004年5月の着工から、2008年8月には海中での函体接続、2010年2月には海底トンネルと陸上トンネルの接続を成功させました。そして2011年2月、ヨーロッパ側からのトンネルと接続し、遂にトンネル全体が貫通しました。この事業は、日本の技術力とトルコの国家プロジェクト推進力が融合した、世界的な技術的偉業といえるでしょう。

歴史的遺跡との遭遇：ビザンチン帝国の遺産

建設工事は順調に進んだわけではありませんでした。ヨーロッパ側の終点付近で、ビザンチン帝国時代の遺跡が発見されたのです。4世紀のコンスタンティノープルの港「ポルトゥス・テオドシアクス」の遺跡に加え、ビザンチン時代の艦船とみられる遺構や、紀元前5000年前からの古代の遺物も発掘され、イスタンブールの歴史を塗り替える発見となりました。これらの発掘調査により工事に遅延が生じましたが、トルコ政府は遺跡の保護を優先し、慎重な対応を続けます。

地震への対策：リスク管理の最前線

マルマライの建設地は、活断層である北アナトリア断層から比較的近い場所にあります。そのため、地震対策はプロジェクトの重要な課題でした。技術者たちは、液状化しやすい地盤へのセメント注入や、地震時の変形に耐えうるトンネル構造の設計、万一の浸水に備えた水門設置など、様々な対策を講じました。

これらの取り組みは、国際的な専門家チームによる厳しい審査を経ており、安全性の高いトンネルとして完成しています。プロジェクトマネージャーも「このプロジェクトに欠けているチャレンジは思いつかない」と語るほど、地震対策は徹底的に行われたのです。

マルマライの完成とイスタンブールへの影響

マルマライは、2013年10月29日に開業しました。イスタンブールにおける公共交通の鉄道利用率は、わずか3.6％から27.7％へと劇的に上昇し、世界でもトップレベルとなりました。ボスポラス海峡の横断時間もフェリーの30分から4分へと大幅に短縮され、市民の生活は大きく改善しました。

マルマライは、単なる交通インフラの整備にとどまらず、イスタンブールの都市開発に大きく貢献し、アジアとヨーロッパを繋ぐ重要な役割を果たしています。また、日土両国の技術協力の成功事例としても、世界的に高く評価されています。

今後の展望

マルマライの成功は、今後、世界中の大規模インフラプロジェクトにおいて、技術的な課題や歴史的・環境的制約への対応、国際協力の重要性を改めて示すものとなりました。これからも、その技術と経験は、世界各地の都市開発に活かされていくことでしょう。

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