マロ＝ルノー

エミール・オーギュスト・ルノーは、マロ＝ルノー（Malo-Renault）という筆名で美術界に広く知られたフランスの版画家、そして優れたイラストレーターです。彼は1870年10月5日に生を受け、1938年7月19日にその生涯を終えました。

ブルターニュ地方、風光明媚な港町サン・マロで生まれたルノーは、幼少の頃より絵画に深い興味を示しました。早くも1883年には、地元の美術教師であったオーギュスト・ルモワーヌ（Auguste Lemoine, 1848-1909）に師事し、絵画と版画の基礎を熱心に学びます。

更なる研鑽を積むためパリへと移った彼は、国立高等装飾美術学校に入学。そこで当時の著名な版画家、ステファヌ・パンネマーケル（Stéphane Pannemaker, 1847-1930）の指導を受け、版画技術を磨きました。

私生活では、1897年にパリ国立高等美術学校で美術を学んでいたオノリーヌ・セザリーヌ・ティアン（Honorine Césarine Tian, 1871-1953）と結婚します。後にオノリーヌ自身も「ノリ・マロ＝ルノー（Nori Malo-Renault）」のペンネームで版画家として独立した活動を展開することになります。ルノーは妻との協力を得ながら版画家としてのキャリアを本格的にスタートさせました。彼の初期の重要な仕事の一つとして、象徴主義の代表的な作家であるポール・アダム（Paul Adam, 1862-1920）の著作『Le Serpent Noir』に提供した多色版画が挙げられます。ここで彼は、色彩を巧みに用いる多色版画の技術を遺憾なく発揮しています。

彼は美術団体での活動も積極的に行いました。特に、1903年から1928年という長きにわたり、国民美術協会の展覧会へ精力的に作品を発表し続け、その創造性を示す多くの作品を出品しました。これらの活動が認められ、1910年には同協会の会員に推挙されています。

また、ルノーは教育者としての一面も持っていました。「エコル ABC ド パリ（École ABC de Paris）」という私立の通信制美術学校でデッサンの指導にあたり、後進の育成にも関わっています。

版画の技法においては、彼は多色版画を最も得意としましたが、それ以外にもドライポイント、エッチング、木版画といった多様な技法を駆使して、幅広い表現に取り組みました。彼の作品は、繊細な線描と豊かな色彩感覚によって特徴づけられています。

しかし、彼の創作活動は突然の終わりを迎えます。1938年、ル・アーヴル滞在中に不慮のバイク事故に巻き込まれ、67歳でその生涯を閉じることとなりました。エミール・オーギュスト・ルノー、すなわちマロ＝ルノーは、その多才な技術と色彩表現への深い探求心をもって、20世紀初頭のフランス版画界に確かな足跡を残した芸術家です。

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