マント (紋章学)

紋章におけるマント（ランバキン）について

紋章におけるマント、またはランバキンは、騎士が身につけたマントを模したもので、エスカッシャン（盾）の背景を飾る重要な要素です。このマントは、単なる装飾ではなく、騎士の歴史や勇敢さを象徴する意味合いを持っています。

マントの起源と役割

元々、騎士がマントを着用したのは、大きく分けて二つの理由があります。

1. 環境からの保護: 鎧は直射日光を浴びると内部が高温になるため、マントはこれを遮る役割を果たしました。また、鎧が錆びるのを防ぐ効果もありました。特に、十字軍遠征のような過酷な環境下では、マントは必要不可欠なものでした。

2. 戦闘における防御: マントは、敵の武器を絡め取ったり、直接的な攻撃から身を守ったりする役割も担っていました。

紋章に描かれるマントは、ヘルメットから吊るされた布の覆いを表現しており、戦場で激しく戦った騎士のマントは、しばしばボロボロに表現されます。これは、その騎士の勇敢さを示す象徴とされています。現代においても、この伝統的な表現方法は変わることなく受け継がれています。

マントのデザインと意味

マントのデザインは、紋章学において重要な意味を持ちます。通常、マントは表と裏で異なる色が用いられ、原色と金属色が組み合わされます。例えば、「mantled x, doubled y」という記述は、マントの表地がx色、裏地がy色であることを示します。

マントの色は、通常、エスカッシャンの主要な色や、紋章を所有する者の制服の色などが用いられます。カナダの国章では、白と赤のマントが使用されています。

ただし、マントの配色には例外も存在します。ブラック・ローヤリスト・ヘリテイジ協会の紋章では、表裏ともにアーミン（白地に黒の斑点模様）が用いられています。また、稀にマントの表地が二色に分割されていたり、表裏両方が分割されている例も見られます。

君主や皇太子の紋章においては、さらに特別な配色が用いられることがあります。イギリスの国章や日本の天皇の紋章では、表地が金、裏地がアーミンのマントが用いられており、これは君主のみに許された特別な表現です。また、貴族は原色とアーミンを使用し、それ以外の階級ではアーミンを使用してはならないという区別も存在します。

マントの変化

マントのデザインには、様々なバリエーションが存在します。房飾りがついたマントや、特殊な形状にカットされたマントなど、紋章のデザインによって異なる表現が見られます。

まとめ

紋章におけるマントは、騎士の歴史、勇敢さ、そして紋章を所有する者の地位や個性を象徴する重要な要素です。その色彩や形状、デザインは、紋章全体の意味を深め、視覚的な魅力を高める役割を果たしています。

参考文献
森護 (1996年8月23日). ヨーロッパの紋章 ―紋章学入門― シリーズ 紋章の世界 I (初版 ed.). 東京都渋谷区: 河出書房新社. ISBN 4-309-22294-3
森護 (1998年5月10日). 紋章学辞典 (初版 ed.). 東京都千代田区: 大修館書店. ISBN 4-469-01259-9

関連項目
紋章学
紋章

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