マーカー遺伝子

マーカー遺伝子とは

マーカー遺伝子（marker gene）は、遺伝子組み換え技術において、目的の遺伝子が細胞や生物に適切に組み込まれたかを確認し、成功した個体を選び出すための目印となる遺伝子です。この役割から、「選択マーカー（selectable marker）」とも呼ばれます。

なぜマーカー遺伝子が必要なのか

遺伝子を細胞に導入する操作の成功率は一般的に低く、さらに遺伝子が組み込まれた細胞（形質転換体）とそうでない細胞（非形質転換体）は、多くの場合、見た目に区別がつきません。そのため、膨大な数の細胞の中から、わずかに存在する形質転換体だけを識別し、効率的に分離・培養するための手段が不可欠となります。マーカー遺伝子は、この選抜プロセスを可能にするために導入されます。

マーカー遺伝子の役割と選抜方法

マーカー遺伝子は、細胞内に存在することで特定の機能を発揮し、形質転換体であることを識別できるようにします。マーカーの種類に応じ、様々な方法で選抜が行われます。例えば、特定の薬剤に耐性を持つマーカー遺伝子があれば、その薬剤を含む培地で非形質転換体を死滅させ、形質転換体だけを生存させられます。蛍光タンパク質マーカーであれば、蛍光顕微鏡で光る細胞を見つけ出せます。呈色反応酵素マーカーであれば、特定の基質で色が変わる細胞を識別できます。

主なマーカー遺伝子の種類と例

マーカー遺伝子にはいくつかの主要なタイプがあります。

蛍光タンパク質や呈色反応酵素の遺伝子: 細胞自体が光ったり、特定の色に変化したりすることで識別を可能にします。非破壊的な観察に適しています。
緑色蛍光タンパク質（GFP）遺伝子: 緑色の蛍光を発します。
ルシフェラーゼ遺伝子: 基質存在下で光を放ちます。
β-グルクロニダーゼ（GUS）遺伝子 (uidA): 特定の基質を分解し、青色を生成します。
β-ガラクトシダーゼ遺伝子 (lacZ): 特定の基質（例: X-Gal）で青色を呈します。

薬剤耐性遺伝子: 特定の薬剤に対する耐性を付与し、薬剤存在下での生存によって形質転換体を選抜します。
抗生物質耐性遺伝子: カナマイシンやアンピシリンなどへの耐性。
除草剤耐性遺伝子: グリホサートやBastaなどへの耐性。遺伝子組み換え作物に利用。
変異型アセト乳酸合成酵素（ALS）遺伝子: 特定の除草剤が阻害する酵素を変異させ耐性を付与。

発現すると致死的に働く遺伝子: 特定の条件下で細胞を死滅させるように設計され、目的の遺伝子が組み込まれなかった細胞を除去するために用いられます。
チミジンキナーゼ（TK）遺伝子: 特定の抗ウイルス薬などで細胞死を誘導。
ジフテリアトキシン（DT）遺伝子: 致死性の毒素を作ります。

まとめ

マーカー遺伝子は、遺伝子組み換え技術において形質転換体を効率的に識別・選抜するための不可欠なツールです。様々な種類のマーカー遺伝子が存在し、研究や応用の目的に応じて使い分けられています。

関連項目

遺伝子組み換え作物
トランスジェニック動物
ノックアウトマウス
レポーター遺伝子 - 選抜目的ではなく、遺伝子発現の報告に用いられる点でマーカー遺伝子と区別されることがあります。

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