マーガレット・キャヴェンディッシュ

マーガレット・ルーカス・キャヴェンディッシュ：時代を先駆けた女性知識人

マーガレット・ルーカス・キャヴェンディッシュ（1623年頃 - 1673年）は、17世紀のイングランドにおいて、貴族、哲学者、科学者、作家として異彩を放った女性です。清教徒革命から王政復古という激動の時代に、彼女は学問と創作活動を通じて、社会の常識に挑戦し、独自の思想を世に問いました。その足跡は、現代においても多くの人々に影響を与え続けています。

生涯と時代背景

マーガレットは、1623年頃、コルチェスター近郊のセント・ジョンズ・アビーで、ルーカス家の娘として生まれました。父は決闘により一時亡命を余儀なくされましたが、後に帰国し、裕福な家庭環境で育ちました。公的な教育は受けていませんでしたが、豊富な蔵書に囲まれ、家庭教師から指導を受ける機会にも恵まれました。しかし、彼女自身は、当時の女性が公に知性を示すことが憚られたため、内に秘めた思索を深めていったと言います。

第一次イングランド内戦が勃発すると、ルーカス家は国王チャールズ1世を支持し、マーガレットは王党派の拠点であるオックスフォードへ移ります。1643年には、ヘンリエッタ・マリア王妃の侍女となり、翌年、王妃とともにフランスへ亡命。パリに亡命宮廷が置かれると、そこで後の夫となるニューカッスル侯爵ウィリアム・キャヴェンディッシュと出会います。

1645年、ウィリアムと結婚したマーガレットは、ニューカッスル侯爵夫人となります。夫は文芸に通じた人物であり、彼女の文筆活動を大いに支援しました。夫妻の間には子供はいませんでしたが、マーガレットは夫の連れ子たちとも良好な関係を築き、彼の伝記を執筆するなど、深い愛情と尊敬を抱いていたことが伺えます。

王政復古後、キャヴェンディッシュ家はイングランドへ帰国しますが、内戦の影響で家計は苦しい状況が続きました。しかし、マーガレットは執筆活動を続け、数々の著作を発表。1673年12月15日、ノッティンガムシャーのウェルベック・アビーでその生涯を閉じました。

思想と著作

マーガレット・キャヴェンディッシュは、詩、哲学、散文ロマンス、エッセイ、戯曲など、多岐にわたるジャンルの作品を執筆しました。彼女の著作の特徴は、当時の社会通念にとらわれず、ジェンダー、権力、習慣、科学、哲学、文芸評論など、幅広いテーマを扱っている点です。

代表作の一つであるユートピア的ロマンス『光り輝く世界』（1666年）は、SFの初期の例として知られています。この作品では、ヒロインが異世界で女帝となり、著者自身を投影した人物と対話を通じて、理想の世界を創造していく様子が描かれています。また、『実験哲学に関する所見』（1666年）では、当時の科学界、特に王立協会が行っていた実験主義的な研究手法を批判し、独自の自然哲学を展開しました。

マーガレットは、17世紀のアリストテレス主義や機械論を批判し、生気論的なモデルを支持しました。彼女の自然哲学は、当時の科学界においては異端と見なされることもありましたが、独自の視点から自然現象を捉えようとする姿勢は、高く評価されています。

女性としての挑戦

マーガレット・キャヴェンディッシュは、女性が学問や文筆活動を行うことが一般的ではなかった時代に、自身の名前を明らかにして著作を刊行しました。これは、当時の社会においては非常に勇気ある行動であり、彼女の進取の気性を物語っています。しかし、その一方で、彼女は女性に対する社会的な偏見や制約に苦悩し、自身の著作の中でも、女性の教育機会の不平等や能力に対する疑問を呈しています。

彼女の思想は、現代のフェミニズムの観点から見ると矛盾している点もありますが、当時の社会状況を考慮すると、女性としての自己表現と社会的な期待の間で揺れ動いていた彼女の葛藤が垣間見えます。

後世への影響

マーガレット・キャヴェンディッシュは、その特異な個性と著作を通じて、多くの人々に影響を与えました。ヴァージニア・ウルフをはじめとする後世の作家や研究者たちは、彼女の作品を再評価し、その思想や生き方に新たな光を当てています。また、彼女の著作は、SFやフェミニズム研究の分野においても重要な位置を占めており、現代においてもその影響力は衰えていません。

マーガレット・ルーカス・キャヴェンディッシュは、時代を先取りした女性知識人として、その名と業績は後世に語り継がれていくことでしょう。

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