マーキュリック・ダンス

アルバム『マーキュリック・ダンス』について

『マーキュリック・ダンス 〜躍動の踊り』は、日本の音楽シーンにおいて特異な存在感を放つミュージシャン細野晴臣の11作目のオリジナルアルバムです。この作品は1984年に彼の自主レーベル「モナドレーベル」からリリースされました。細野は、このアルバムを含む一連の作品、すなわち「コインシデンタル・ミュージック」、「パラダイスビュー」、「エンドレス・トーキング」を「観光音楽」と称しています。これにより、彼の音楽がどのように風景や自然と結びついているのかを感じ取ることができます。

アルバムの名は「マーキュリー」、つまり水銀に由来し、紀伊、上州、長野といった地域を巡り、その水脈を辿るエネルギーの象徴としてタイトルが設定されました。これは、金属水銀が持つ独特の流動性と力強さを表現したもので、音楽そのものにも流れるような動きと活気を感じ取ることができます。

このアルバムは、奈良県天河村を舞台にした同名の映像作品のサウンドトラックとしても制作されました。その映像作品は1984年4月28日に荒井唯義との共同名義でビデオとして発売されましたが、現在では入手困難となっています。じっくりと聴くことで、映像と音楽の相互作用を感じることができるのが魅力です。

細野は本作のパーカッションに原田悠仁を起用しており、他の演奏はほとんどが彼自身によって演奏されています。アルバムはA面「天川〜戸隠サイド」とB面「鹿島〜東京サイド」の2部構成になっています。A面は自然の中で録音されており、山中の澄んだ空気を感じさせる音色が特徴的です。一方、B面はスタジオ録音であり、都市的な洗練された雰囲気が漂います。これら二つのサイドを聴き比べることで、異なる作風が楽しめます。

収録されている曲のすべては細野自身による作曲と編曲が施されており、各曲がそれぞれのテーマを持っています。たとえば、「水と光 太陽」や「美の生成 金星」といった楽曲は、それぞれの自然現象に触発されたものです。また、「火の化石 〜五十鈴」や「龍の道 海王星」といった楽曲もあり、宇宙と自然の調和を表現しています。

アルバムは1996年にCD化されましたが、その後長年の間、再発されることがありませんでした。しかし、2008年にはタワーレコード限定で紙ジャケット版が再登場し、その魅力を再確認する機会が得られました。

『マーキュリック・ダンス』は、細野晴臣の音楽的な探索と表現の多様性を体現した一枚です。リスナーはこのアルバムを通じて、彼の音楽が持つ深い感動を味わうことができるでしょう。

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