マーキュリー・アトラス5号

マーキュリー・アトラス5号（MA-5）の概要

マーキュリー・アトラス5号（MA-5）は、アメリカ合衆国のマーキュリー計画における無人の宇宙飛行であり、1961年11月29日にチンパンジーのイーノスを乗せて打ち上げられました。この飛行は、有人宇宙飛行に先駆けて、宇宙船の性能と安全性を検証するための重要なミッションでした。MA-5は地球を2周した後、無事に着水し、イーノスは生還しました。

背景

当時、ソビエト連邦は有人宇宙飛行で先行しており、ユーリ・ガガーリンとゲルマン・チトフが軌道飛行を成功させていました。一方、アメリカは弾道飛行に留まっており、有人軌道飛行に向けた準備を急いでいました。NASAは、マーキュリー・アトラス計画の一環として、チンパンジーを軌道に送ることを計画していました。しかし、NASA内部では、有人飛行の前にさらに無人飛行を実施するべきかについて議論が続いていました。このような状況下で、MA-5の打ち上げは、有人飛行への重要なステップとして位置づけられました。

発射と軌道上

MA-5の飛行には、マーキュリー宇宙船9号とアトラスロケット93-D号が使用されました。宇宙船の準備には40週間を要し、これはマーキュリー計画の中で最長でした。当初、MA-5の目的は計器による弾道飛行でしたが、最終的にチンパンジーを乗せての周回飛行となりました。アトラスロケットの信頼性は、MA-4の成功によって高まっていましたが、MA-5では振動問題に対処するため、自動操縦装置に若干の変更が加えられました。また、ロケットのジャイロスコープモーターの作動を保証するためのセンサーが新たに追加されました。

MA-5は、有人軌道飛行MA-6の近似値を取るように計画され、ケープ・カナベラルから打ち上げられました。軌道投入後、宇宙船は地球を2周し、逆噴射によって大気圏に再突入しました。MA-5に使用された宇宙船9号は、大型の窓を持つ「マークII」型であり、大気圏再突入時の高温に耐えられるかを検証する必要がありました。このため、有人飛行に先駆けてMA-5で試験することになりました。

イーノスの選抜

MA-5の飛行に選ばれたチンパンジーのイーノスは、アフリカのカメルーン出身で、元はチンパンジー81番と呼ばれていました。イーノスは、他の4匹のチンパンジーと共に、飛行のために訓練されました。最終的に、イーノスがMA-5のパイロットに選ばれ、ヘブライ語で「人間」を意味する名前が与えられました。

飛行中の問題点

MA-5の飛行中、いくつかの問題が発生しました。まず、姿勢制御装置の故障により、宇宙船の姿勢が不安定になりました。これは、燃料供給ラインの金属片が原因でした。また、環境制御システムにも問題が発生し、宇宙服仕様の座席の温度が上昇しました。しかし、これらの問題にもかかわらず、イーノスの体調は安定しており、最終的に飛行を中止する事態には至りませんでした。

軌道2周目において、姿勢制御のトラブルに加え環境制御システムが問題を起こし、宇宙服仕様の座席の温度が18℃から30℃に急激に上昇しました。熱交換器が凍ってしまった事が原因と推測されましたが、最終的に体温は38.1℃で安定し、環境制御システムが再び機能し始めたことを示していました。

帰還

飛行司令官のクリストファー・クラフトは、技術班の懸念を考慮し、イーノスを地球に帰還させることを決断しました。MA-5は、予定された逆噴射ポイントに到達する直前に、逆噴射を開始し、無事に大気圏に再突入しました。着水地点では、駆逐艦と飛行艇が待機しており、宇宙船は回収されました。イーノスは、宇宙船から引き上げられ、その後の医学的な検査で良好な状態であることが確認されました。

その後

MA-5の飛行は、マーキュリー宇宙船が人間を軌道に乗せるに足りる信頼性があることを実証しました。しかし、イーノスは、その後の1962年11月4日に細菌性赤痢で死亡しました。しかし、死因と1年前の宇宙飛行には関連性は無い事が報告されました。

まとめ

マーキュリー・アトラス5号は、有人宇宙飛行に向けた重要な一歩であり、多くの技術的な課題を克服したミッションでした。チンパンジーのイーノスの活躍は、人類の宇宙進出の歴史において、重要な役割を果たしました。MA-5の成功は、その後の有人宇宙飛行の道を開き、NASAの宇宙開発における実績の礎となりました。

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