マージョリ・リーヴス

マージョリ・エセル・リーヴス：中世史・宗教史におけるフィオーレのヨアキム再評価の先駆者

マージョリ・エセル・リーヴス（Marjorie Ethel Reeves, 1905年7月17日 - 2003年11月27日）は、イギリスを代表する中世史家・宗教史家です。彼女の業績の中でも特に重要なのは、20世紀初頭には忘れ去られかけていたフィオーレのヨアキムの思想を再評価し、その思想が歴史に与えた影響を明らかにしたことです。オックスフォード大学セント・アンズ・カレッジで長年にわたり教鞭を執り、副学寮長も務めました。

生涯と学問への道

リーヴスは1905年、ウィルトシャー州ブラットンの鉄工所経営者の家庭に生まれました。1929年にオックスフォード大学で現代史の学位を取得しましたが、その頃から中世史に関心を抱き、フィオーレのヨアキムに出会いました。ロンドン大学ウェストフィールドカレッジでの研究員時代には、ヨアキムの思想が16世紀にどのように受容されたかを研究し、学位論文として発表しました。その後、教育大学での講師を経て、1938年からはオックスフォードに戻り、セント・アンズ・カレッジで歴史学を教え、1951年から1967年まで副学寮長を務めました。

1950年代には、研究のためにイタリアに渡り、バチカン図書館で調査を行ったほか、ヨアキムが創設した修道院跡を訪れました。当時、ヨアキムへの関心は薄れており、修道院跡も荒廃していましたが、リーヴスをはじめとする研究者たちの尽力により、ヨアキムの思想は再評価されるようになりました。彼女が訪れたサン・ジョヴァンニ・イン・フィオーレにはヨアキム国際研究所が設置され、修道院の修復も行われました。リーヴスは、その変化を目の当たりにし、感慨深く語ったとされています。1994年には、サン・ジョヴァンニ・イン・フィオーレから名誉市民の称号を授与されました。

2003年、リーヴスはオックスフォードで98歳で生涯を閉じました。

ヨアキム研究：失われた思想の再発見

リーヴスの研究の中心は、フィオーレのヨアキムとその思想に関するものでした。第二次世界大戦末期、彼女はヨーロッパからイギリスに亡命してきた研究者の論文を手がかりに、長らく所在不明だったヨアキムの『形象の書』の写本をオックスフォードのボドリアン図書館で発見しました。この発見は、ヨアキム研究における大きな転換点となりました。

彼女のヨアキム研究における主著は『中世の預言とその影響 - ヨアキム主義の研究』（1969年）です。この大著は、ヨアキム自身の思想だけでなく、ヨアキム主義者たちの思想までを広範囲に分析したもので、ヨアキム研究の出発点として高く評価されています。また、ベアトリス・ヒルシュ＝ライヒとの共著で、『形象の書』の注解書も刊行しました。

彼女のヨアキム研究は、「ヨアキム・ルネサンスの伝統」に貢献したとして、高く評価されています。

主な著作

The influence of prophecy in the later Middle Ages : a study in Joachimism, Oxford : Clarendon Press, 1969.（『中世の預言とその影響 : ヨアキム主義の研究』）
The figurae of Joachim of Fiore, Oxford : Clarendon Press, 1972. （『フィオーレのヨアキムの形象』、共著）
Joachim of Fiore & the prophetic future : a medieval study in historial thinking, London : S.P.C.K., 1976（『フィオーレのヨアキムと預言的未来 : 歴史的思考の中世的研究』）
Joachim of Fiore and the myth of the eternal evangel in the nineteenth century, Oxford : Clarendon, 1986.（『19世紀におけるフィオーレのヨアキムと永遠の福音の神話』、共著）
* The prophetic sense of history in medieval and renaissance Europe, Aldershot : Ashgate, 1999. （『中世およびルネサンス期ヨーロッパにおける歴史の預言的感覚』）

マージョリ・リーヴスの研究は、中世史・宗教史研究に大きな足跡を残しました。彼女のヨアキム研究は、今日においても重要な参考文献として参照されています。

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