マーダーライセンス牙

マーダーライセンス牙：正義と影の狭間で舞う忍者の物語

平松伸二氏による漫画作品『マーダーライセンス牙』は、表向きはスポーツジムのインストラクターとして働く青年、木葉優児の隠されたもう一つの顔を描く社会派アクションです。彼は、内閣総理大臣である板垣重政の息子であり、日本そして国際社会の平和を脅かす存在を抹殺する、極秘の任務を担っています。

親子で紡ぐ、影の正義

優児と板垣は、表では全く面識のない他人として振る舞っています。しかし、その裏では血の繋がりによって結ばれた、独特の父子の関係にあります。板垣から下される「牙指令」を受け、優児は超人的な忍の技と、日本でただ一人持つ「殺人許可証」の権限を駆使して、様々な敵と戦います。

この指令は、盗聴防止機能を備えた極秘シェルターの中で、全裸という徹底した秘密保持のもとで伝えられます。「一切の隠し事なし」という、強い信頼と決意の証です。

政治と国際情勢が織りなす、緊迫の物語

本作は、当時の政治情勢を深く反映しており、実在の政治家たちを思わせる登場人物が多く登場します。また、国際問題も重要な要素の一つとなっており、物語に深く関わる国々は、C国やA国といった仮称で描かれることも多く、その扱いはエピソードによって様々です。

優児の能力は、木葉流忍術の継承者としての高い戦闘力だけではありません。彼は「マッスルコントロール」という奥義を使いこなし、自在に筋肉を操ることで、女性の姿に変身することも可能です。表の顔は、スポーツインストラクターや医師として活動する優児／優子は、その美貌と完璧な振る舞いで周囲を魅了する一方で、人間らしい弱さも持ち合わせています。

多様な登場人物と、複雑な人間関係

物語には、優児と板垣の他に、様々な登場人物が登場します。内閣情報調査室長の東堂俊介、検事総長の河山三郎といった、牙指令に協力する者たち。木葉フィットネスクラブのオーナーで優児の師匠である三太夫、そしてソ連大統領の警護隊長イワン・ラングレンなど、優児を支える協力者たちは、それぞれが独自の個性を持ち、物語に彩りを添えています。

一方、物語の敵役も多岐に渡り、個性的な悪党たちが優児の前に立ちはだかります。財政界の黒幕・九鬼容堂とその手下たち、国際的なテロ組織「WHO」、そして様々な刺客たちが、それぞれの思惑を抱いて優児と対決します。

欠番と、他作品への登場

連載当時、第14話「罪の清算」において、実在の犯罪者の名前を使用し、後に謝罪記事が掲載されました。このエピソードは単行本未収録となり、後に作者の短編集や別冊コミックに収録されています。

また、『マーダーライセンス牙』の登場人物たちは、『マーダーライセンス牙＆ブラックエンジェルズ』といった他作品にも登場し、物語はさらに広がっています。

結末と、その後

最終話では、優児はアメリカ、ロシアの大統領と共に拉致された板垣を救出するため、サラエボの紛争地帯へと向かいます。激しい戦いを経て三首脳を救出するものの、新たな紛争へと突入し、物語は幕を閉じます。優児の生死は不明でしたが、その後も様々な作品に姿を見せています。

『マーダーライセンス牙』は、忍者アクション、政治サスペンス、社会派ドラマといった要素を巧みに融合させた、唯一無二の作品です。正義とは何か、平和とは何かを問いかけながら、読者に深い余韻を残す、傑作漫画と言えるでしょう。

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