マーチ・721

マーチ・721：成功と失敗の狭間を歩んだF1マシン

1972年のF1世界選手権を舞台に、マーチ・エンジニアリング社はマーチ・711の後継機としてマーチ・721を開発しました。前年の好成績を踏まえ、チームは721でトップコンストラクターの座を狙っていました。しかし、開発過程は予想以上に複雑で、成功と失敗が隣り合わせでした。

721の3つのバージョン

マーチ・721には大きく分けて3つのバージョンが存在しました。基本モデルの721は、フランク・ウィリアムズやギュンター・ヘンネリシといった顧客チームに供給されました。シンプルな設計で、堅実な性能を発揮したと言われています。

一方、ファクトリーチーム用に開発されたのが721Xです。モノコックは721と共通でしたが、リアサスペンションはレバーとスプリングによる複雑な機構を採用していました。設計者フランク・コステンは、車両重量を中央に集中させることで慣性モーメントを低減し、ハンドリングの向上を目指しました。しかし、この設計思想はシャシーとタイヤの特性と相性が悪く、フロントタイヤへの過大な負担からアンダーステアとオーバーステアが頻発。結果として、721Xは深刻な操縦性の悪さで苦しむことになりました。

当時のファクトリードライバーであったニキ・ラウダは、721Xを「完全な失敗」「死産」「災害」と酷評しています。この失敗を踏まえ、マーチはわずか9日間という短期間で、721Xの代替モデルとなる721Gを開発しました。

721G：短期間開発による奇跡の復活

721Gは、F2マシンであるマーチ・722をベースにF1レギュレーションに適合させたモデルです。721からの改良点は主にサスペンションとブレーキシステムで、エンジンはコスワースDFVを搭載していました。わずか3台が製作された721Gでしたが、そのパフォーマンスは721Xとは対照的でした。ロニー・ピーターソンは721Gを駆り、ドイツGPで3位表彰台を獲得。チームにとって貴重なポイント獲得となりました。一方、フル参戦初年度だったニキ・ラウダはポイント獲得には至りませんでしたが、721Xの悪夢を払拭する、貴重な経験となったでしょう。

結論

マーチ・721は、721Xという痛恨の失敗作を生み出したものの、721Gという改良型によってその汚名を返上しました。わずか9日間の開発期間で生み出された721Gは、マーチ・エンジニアリングの技術力と開発スピードを示す、一つの象徴と言えるでしょう。この経験は、チームにとって貴重な教訓となり、今後の開発に活かされたことは間違いありません。721シリーズを通して、F1マシンの開発における設計思想と、その現実のギャップを改めて認識させられる、重要な事例と言えるでしょう。

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