ミオミール・ブコブラトビッチ

ミオミール・ブコブラトビッチ（Miomir Vukobratović、1931年10月1日 – 2012年3月11日）は、セルビアの著名なロボット研究者です。彼は、二足歩行ロボットの研究において重要な概念となるゼロモーメントポイント（ZMP）を世界で初めて提唱したことで知られています。

生涯と業績

ブコブラトビッチはベオグラード大学機械工学科で学び、1957年に学士号、1964年にPh.Dを取得しました。その後、ミハイロ・ピューピン研究所で、生物力学科長、ロボティクス・FA研究所ディレクター、ロボティクス研究所ディレクターを歴任しました。この研究所は、かつてユーゴスラビア社会主義連邦共和国のコンピュータを設計・製造していた場所です。

彼は主にロボットの動力学研究に従事し、パワードスーツのような歩行補助機器の開発を行いました。マニピュレータの動力学に加え、歩行ロボットのモデリングと制御に関する研究を精力的に進めました。1970年には、画期的な概念であるゼロモーメントポイントを世界で初めて提唱し、二足歩行ロボット研究に大きな進歩をもたらしました。

日本との関わり

ブコブラトビッチは、日本のロボット研究者である早稲田大学の加藤一郎教授と親交がありました。加藤研究室では、ゼロモーメントポイント規範制御による二足歩行が実現されています。日本のロボット研究者からは親しみを込めて「ブコさん」と呼ばれていました。梶田秀司によれば、彼は「研究の議論となれば若造であろうと容赦しない厳しさ」と「暖かな包容力」を兼ね備えた人物でした。

受賞歴と栄誉

ブコブラトビッチの業績は国際的にも高く評価されており、1972年にはソ連科学アカデミーMashinovedeniya研究所からD.Sc.を授与されています。また、「能動機構学」を提唱しました。

彼は数多くの賞を受賞しており、1976年には7月7日賞（セルビア）、1979年には10月賞（ベオグラード）、1982年にはAVNOJ賞（ユーゴスラビア）を受賞しています。1996年には、ロボット工学の教育分野における貢献が認められ、エンゲルバーガー賞（教育部門）を受賞しました。さらに、2002年にはThe Karic Brothers Awardを受賞しています。

また、1994年には1等聖サヴァ勲章（セルビア正教会）を受章しました。同年には、セルビア科学芸術アカデミー技術科学部門会員に選出され、ハルビン工業大学（中国）と極東技術大学（ロシア）の名誉教授にもなっています。モスクワ大学、ノヴィ・サド大学（セルビア）、ティミショアラ技術大学（ルーマニア）から名誉博士号を授与されています。

主な著作

ブコブラトビッチは、ロボット工学に関する多くの著作を残しています。代表的な著書としては、以下のものがあります。

『歩行ロボットと人工の足』（1975年、日刊工業新聞社、加藤一郎、山口忠 訳 編）
『ロボットの手―力学と運動』（1979年、日刊工業新聞社、加藤一郎 監訳 編）
『ロボット工学の基礎―マニピュレータの動力学』（1986年、シュプリンガー・フェアラーク東京、M. ブコブラトビッチ、V. ポトコニャック 著、古田勝久 訳 編）
"Biped Locomotion ―Dynamics, Stability, Control and Application―" (1990-4, Springer-Verlag, Miomir Vukobratović, B. Borovac, D. Surla, and D. Stokić)

晩年

ミオミール・ブコブラトビッチは、2012年3月にベオグラードで亡くなりました。彼の研究は、今日のロボット工学の基礎を築き、多くの研究者に影響を与え続けています。

彼の提唱したゼロモーメントポイントの概念は、二足歩行ロボットの安定性制御において不可欠なものとして、現在も広く活用されています。

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