ミカ・カウリスマキ

ミカ・カウリスマキ：フィンランド映画界の巨匠

ミカ・カウリスマキは、1955年9月21日生まれのフィンランドを代表する映画監督、脚本家、映画プロデューサーです。彼の作品は、独特なユーモアと社会への鋭い視点が特徴であり、国際的にも高い評価を受けています。また、実弟であるアキ・カウリスマキも著名な映画監督であり、兄弟でフィンランド映画界を牽引しています。

ブラジルと音楽への情熱

ミカ・カウリスマキは、ブラジルに長く住んでいた経験から、ブラジルやブラジル音楽をテーマにした映画を多く制作しています。『モロ・ノ・ブラジル』や『Brasileirinho - Grandes Encontros do Choro』などの音楽ドキュメンタリー作品は、彼の音楽への深い造詣とブラジル文化への愛情が表れています。特に、ブラジルの伝統音楽ショーロに焦点を当てた作品は、音楽ファンからも高い評価を得ています。1989年から2010年代後半まで、故郷とリオデジャネイロを行き来する生活を送っていたことからも、彼のブラジルへの深い関心が伺えます。

映画監督への道

高校卒業後、ペンキ職人として働いていたミカ・カウリスマキは、1976年に偶然手にした映画史の本を読んだことがきっかけで、映画監督になることを決意します。その後、ミュンヘンテレビ・映画大学で映画製作を学び、1981年に卒業。同年、弟のアキ・カウリスマキや友人たちと制作・配給会社Villealfa Filmproductions oyを設立し、自主制作映画を多く手掛けました。この会社は、カウリスマキ兄弟の他にも、俳優のマッティ・ペロンパーやカリ・ヴァーナネンなど、多くの映画関係者が集まる場所となりました。

Villealfa時代と初期の作品

Villealfa時代には、ロードムービー『The Worthless』(1982年)や『Rosso』(1985年)、アクションコメディ『ヘルシンキ・ナポリ-オールナイト・ロング』(1987年)、環境アドベンチャー『アマゾン』(1990年)など、ジャンルにとらわれない多彩な作品を発表しました。また、ミカのアシスタントや脚本家を務めていたアキ・カウリスマキは、ミカが処女作『罪と罰』（1984年）を制作したことがきっかけで、監督としてのキャリアをスタートさせています。Villealfaは、ミッドナイト・サン映画祭(1986年)、配給会社センソ・フィルムズ(1987年)、ヘルシンキのアンドラ映画館を共同設立するなど、フィンランドの映画文化の発展にも大きく貢献しました。

国際的な評価と受賞

1987年には、プロダクション会社「マリアナ・フィルム・オイ（Marianna Films Oy）」を設立し、その後も精力的に映画制作を続けます。1992年には、『ゾンビ・アンド・ザ・ゴースト・トレイン』でフィンランド映画賞監督賞を受賞。その後も、『コンディション・レッド/禁断のプリズン』や『アマゾン』などの作品で海外との共同制作も経験し、国際的な評価を高めていきました。1994年には、サミュエル・フラー、ジム・ジャームッシュとの共同制作『ティグレロ - A Film That Was Never Made』で、ベルリン国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞しました。2008年には、『Three Wise Men』がフィンランドのユッシ賞、メキシコのモンテレイ国際映画祭、エストニアのタリンブラックナイツ映画祭、スペインのヴァラドリッド国際映画祭などでノミネートされ、数々の賞を受賞しています。2019年の『Mestari Cheng』（世界で一番しあわせな食堂）も、リューベック北欧フィルムデイズでベストフィルム賞、ミルバレー映画祭で観客賞を受賞し、2021年には日本でも公開され、幅広い観客を魅了しました。

多彩な作品群

ミカ・カウリスマキの作品は、コメディ、ドラマ、音楽ドキュメンタリーなど、多岐にわたります。初期の作品から近年の作品まで、その作風は常に変化し続けており、観客を飽きさせません。彼の作品には、社会への批判的な視点や、人間関係の複雑さを描いたものが多く、観る者に深い印象を与えます。

近年の活動

2020年には、『Gracious Night 』がタリン ブラックナイツ映画祭にノミネートされ、世界初演されました。また、音楽ドキュメンタリー作品も精力的に制作しており、彼の音楽への深い造詣が伺えます。

ミカ・カウリスマキは、フィンランド映画界だけでなく、国際的にも重要な映画監督の一人として、今後もその活躍が期待されています。

主な監督作品

嘘つき　Valehtelija (1981)
The Saimaa Gesture Saimaa-ilmiö (1981)
Jackpot2 (1982)
The Worthless Arvottomat (1982)
The Clan - Tale of Frogs Klaani Tarina Sammakoitten suvusta (1984)
Rosso (1985)
ヘルシンキ・ナポリ/オールナイトロング Helsinki Napoli All Night Long (1987)
Night Work Yötyö (1988)
Cha Cha Cha (1989)
Paper Star Paperitähti (1989)
アマゾン Amazon (1990)
ゾンビ・アンド・ザ・ゴースト・トレイン　Zombie ja Kummitusjuna (1991)
ラスト・ボーダー The last border - viimeisellä rajalla (1993)
ティグレロ 撮られなかった映画　Tigrero: A Film That Was Never Made (1994)
コンディション・レッド/禁断のプリズン Condition Red (1995)
狂熱の白昼夢 Sambolico (1996)
GO!GO!L.A. L.A. Without a Map (1998)
Highway Society （2000）
モロ・ノ・ブラジル Moro No Brasil (2002)
Honey Baby（2004）
Brasileirinho - Grandes Encontros do Choro (2005)
Sonic Mirror (2008)
Three Wise Men Kolme viisasta miestä (2008)
The Sound of Glarus (2009)
The House of Branching Love Haarautuvan rakkauden talo (2009)
Vesku (2010)
Mama Africa (2011)
ファーザーズ・トラップ 禁断の家族 Veljekset (2011)
旅人は夢を奏でる Road North (2012)
Homecoming Elämältä kaiken sain (2015)
王となった少女 Girl King (2015)
世界で一番しあわせな食堂 Mestari Cheng (2019)
Gracious Night Yö armahtaa (2020)

著作

「静かなる反抗者」『小津安二郎 大全』（朝日新聞出版、2019年）収録

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