ミッシャ・マイスキー

ミッシャ・マイスキーは1948年1月10日、旧ソビエト連邦構成国であったラトビアの都市リガで生を受けました。現代を代表する国際的なチェリストの一人として目覚ましい活躍を続けており、「ミーシャ」という愛称でも親しまれています。ラトビア語ではミシャ・マイスキスと表記されます。

ユダヤ系の家庭に育ったマイスキーは、8歳でチェロを手にしました。リガ音楽院で基礎を学んだ後、1962年にはレニングラード音楽院付属音楽学校に進学し、さらに研鑽を積みます。彼は少年時代から、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの音楽に特別な魅力を感じていたといいます。

若き才能は早くから注目を集めます。1965年、わずか17歳にして全ソビエト連邦音楽コンクールで優勝を飾り、同年にはレニングラード・フィルハーモニー交響楽団との共演でプロとしての鮮烈なデビューを飾りました。翌1966年には、世界的な権威を持つチャイコフスキー国際コンクールで6位に入賞。このとき審査員を務めていた巨匠チェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチは彼の才能に深く感銘を受け、自身の自宅に招いて直接指導を行うようになりました。マイスキーは幸運にも、ロストロポーヴィチという20世紀を代表する音楽家の数少ない弟子の一人となったのです。

しかし、その輝かしいキャリアの途上で、マイスキーは旧ソビエト体制下での過酷な試練に直面します。1969年、姉がイスラエルへ亡命したことにより、マイスキー一家はソビエト当局の厳しい監視下に置かれることとなりました。そして1970年、マイスキー自身が逮捕され、ゴーリキー郊外の強制労働収容所での18ヶ月間に及ぶ生活を強いられることになります。この時期、師であるロストロポーヴィチもまた、作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンを匿ったことで当局から演奏活動を停止させられるなど、思想的な弾圧を受けていました。収容所から出所した後、マイスキーは兵役を命じられますが、ユダヤ人医師の機転によって精神病院に入院することで、軍務を回避することができたといいます。

激動の時代を経て、1972年に国外への移住が認められたマイスキーは、同年11月にソ連を出国しアメリカへ渡りました。翌1973年にはイスラエルへと拠点を移します。同年、カサド音楽コンクールで優勝し、ニューヨークのカーネギーホールでリサイタルを開催するなど、新たな地で華々しい活動を再開しました。カーネギーホールでのリサイタル後、匿名の老紳士宅に招かれて演奏した際、その紳士から1720年製のモンタニャーナのチェロを贈られたというエピソードは有名です。マイスキーはこの素晴らしい楽器を現在も愛用しています。

さらに1974年には、ロストロポーヴィチからの「ピアティゴルスキーと会える機会があれば、決して逃してはならない」という言葉を胸に、もう一人の偉大なチェリスト、グレゴール・ピアティゴルスキーに師事することを許され、彼の最後の弟子となりました。ロストロポーヴィチ、そしてピアティゴルスキーという20世紀を代表する巨匠から直接指導を受けたマイスキーは、その豊かな音楽の伝統と表現技法を深く継承していきました。

音楽活動においても、マイスキーは常に意欲的で多岐にわたります。特にピアニストのマルタ・アルゲリッチとは、1975年のフランスでの音楽祭で出会って以来、音楽上の重要なパートナーとして数多くの共演を行い、共に傑出した録音を残しています。また、同郷でヴァイオリニストのギドン・クレーメルが主宰するロッケンハウス音楽祭にも定期的に参加するなど、室内楽にも精力的に取り組んでいます。彼のレパートリーは極めて幅広く、チェロのために書かれた古典から現代作品はもちろんのこと、フランツ・シューベルトやリヒャルト・シュトラウスの歌曲をチェロで演奏するという独創的な試みも行い、その表現の可能性を追求しています。

マイスキーの名声を世界的に確立したのが、1984年から1985年にかけてドイツ・グラモフォン・レーベルから発売された、ヨハン・ゼバスティアン・バッハの無伴奏チェロ組曲全曲の録音（旧盤）です。この録音は、その深い表現力と情熱的な演奏で絶賛され、彼の代表的な業績の一つとなり、世界中の音楽愛好家にとってなくてはならないものとなりました。

旧ソ連時代の苦難を乗り越え、偉大な師たちの教えを受け継いだミッシャ・マイスキーは、現在も精力的に演奏活動を続け、その情熱的で詩的な音楽で世界中の聴衆を魅了し続けています。彼が奏でる1720年製モンタニャーナの豊かで美しい響きは、多くの音楽愛好家にとって特別なものです。

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