チャイコフスキー国際コンクール

チャイコフスキー国際コンクール

チャイコフスキー国際コンクールは、ロシア連邦政府とロシア連邦文化省が主催する、クラシック音楽の世界的なコンクールです。1958年に創設され、ロシアの偉大な作曲家ピョートル・チャイコフスキーの名を冠しています。4年に一度、モスクワとサンクトペテルブルクを舞台に開催され、若き才能たちがその技を競い合います。

コンクールの概要

コンクールは、当初はピアノとヴァイオリンの2部門のみでしたが、後にチェロ、声楽が加わり、近年では木管楽器と金管楽器部門も新設されました。また、ヴァイオリン製作者部門も設けられ、楽器製作の技術を競う場も提供しています。参加資格は16歳から32歳まで（声楽部門は19歳から）と定められており、世界中の音楽家にとって、そのキャリアを大きく飛躍させる機会となっています。

コンクールは6月に開催され、予備審査を含む3段階の選考が行われます。各楽器部門には6つの賞が、男女声楽部門にはそれぞれ4つの賞が授与されます。運営は、著名なロシア人音楽家からなる委員会によって組織され、Russian State Concert Company（Sodruzhestvo）がその役割を担っています。

歴史

冷戦時代

コンクールは冷戦時代に、ソ連の文化的な優位性を世界に示す目的も担っていました。第1回コンクールでは、アメリカ人のヴァン・クライバーンがピアノ部門で優勝し、国際的な注目を集めました。しかし、その後、ソ連出身のウラジーミル・アシュケナージが優勝したにもかかわらず、翌年に亡命したことで、ソ連はその優勝記録を抹消するという出来事もありました。初期のコンクールでは、観光目的の参加者も見られたり、賞の該当者がいない場合や複数選出される場合もありました。

規約の変更（2011年）

2011年には規約が大きく変更され、コンチェルト3曲を演奏する部門が新設されました。また、国内予選で選抜する方法から、DVD審査と書類選考による一律選考へと変更され、最高責任者には指揮者のヴァレリー・ゲルギエフが任命されました。

国際音楽コンクール世界連盟からの除名（2022年）

2022年、ロシアのウクライナ侵攻をうけて、国際音楽コンクール世界連盟はチャイコフスキー国際コンクールを除名しました。連盟は、ロシア政府の資金提供を受け、プロパガンダに利用される可能性のあるコンクールを支援することはできないと判断しました。ただし、連盟はすべてのロシア人への全面的な制裁や、国籍を理由としたアーティストへの差別には反対の立場を示しました。コンクールの組織委員長であるゲルギエフは、ロシアのプーチン大統領と親密な関係にあることが知られています。

除名後、2023年のコンクールには、欧米からの参加者が大幅に減少した一方で、中国からの参加者が大幅に増加しました。ロシア政府は、このコンクールが依然として音楽界における重要なイベントであると主張し、ウクライナ侵攻によって低下したロシアの威信を回復させる意図があるとの報道もされました。

開催年と入賞者

以下に、過去の開催年と入賞者の一部を記載します。詳細は、公式ウェブサイトや関連資料をご確認ください。

第1回（1958年）

ピアノ部門
第1位：ヴァン・クライバーン（アメリカ）
第2位：レフ・ヴラセンコ（ソ連）、劉詩昆（中国）
第3位：ナウム・シュタルクマン（ソ連）
ヴァイオリン部門
第1位：ヴァレリー・クリモフ（ソ連）
第2位：ヴィクトル・ピカイゼン（ソ連）
第3位：ステファン・ルハ（ルーマニア）

第2回（1962年）

ピアノ部門
第1位：ウラディミール・アシュケナージ（ソ連）、ジョン・オグドン（イギリス）
第2位：スーザン・スラー（アメリカ）、殷承宗（中国）
第3位：エリソ・ヴィルサラーゼ（ソ連）
ヴァイオリン部門
第1位：ボリス・グートニコフ（ソ連）
第2位：シュムエル・アシュケナジ（イスラエル）、イリーナ・ボチュコヴァ（ソ連）
第3位：ニーナ・ベイリナ（ソ連）、久保陽子（日本）
チェロ部門
第1位：ナターリヤ・シャホスカヤ（ソ連）
第2位：レスリー・パーナス（アメリカ）、ヴァレンチン・フェイギン（ソ連）
第3位：ナターリヤ・グートマン（ソ連）、ミハイル・ホミツェル（ソ連）

第3回（1966年）

ピアノ部門
第1位：グリゴリー・ソコロフ（ソ連）
第2位：ミッシャ・ディヒター（アメリカ）
第3位：ヴィクトル・エレシュコ（ソ連）
ヴァイオリン部門
第1位：ヴィクトル・トレチャコフ（ソ連）
第2位：潮田益子（日本）、オレグ・カガン（ソ連）
第3位：オレグ・クルイサ（ソ連）、佐藤陽子（日本）
チェロ部門
第1位：カリーナ・ゲオルギアン（ソ連）
第2位：スティーヴン・ケイツ（アメリカ）、アルト・ノラス（フィンランド）
第3位：エレオノーラ・テステレツ（ソ連）、安田謙一郎（日本）
声楽部門・女声
第1位：ジェーン・マーシ（アメリカ）
第2位：ヴェロニカ・タイラー（アメリカ）、エヴェリナ・ストイツェヴァ（ブルガリア）
第3位：マリア・ビエシュ（ソ連）
声楽部門・男声
第1位：ヴラジーミル・アトラントフ（ソ連）
第2位：ニコライ・オホトニコフ（ソ連）
第3位：サイモン・エステス（アメリカ）、コンスタンティン・リソフスキー（ソ連）

第4回（1970年）

ピアノ部門
第1位：ウラジミール・クライネフ（ソ連）、ジョン・リル（イギリス）
第2位：オラシオ・グティエレス（アメリカ）
第3位：アルトゥール・モレイラ＝リマ（ブラジル）、ヴィクトリア・ポストニコワ（ソ連）
ヴァイオリン部門
第1位：ギドン・クレーメル（ソ連）
第2位：ウラディーミル・スピヴァコフ（ソ連）、藤川真弓（日本）
第3位：リアーナ・イサカーゼ（ソ連）
チェロ部門
第1位：ダヴィド・ゲリンガス（ソ連）
第2位：ヴィクトリア・ヤグリング（ソ連）
第3位：岩崎洸（日本）
声楽部門・女声
第1位：エレーナ・オブラスツォワ（ソ連）、タマーラ・シニャフスカヤ（ソ連）
第3位：エフドキア・コレスニク（ソ連）
声楽部門・男声
第1位：エフゲニー・ネステレンコ（ソ連）、ニコライ・オグレニチ（ソ連）
第2位：ヴラジスラフ・ピアフコ（ソ連）、ズラブ・ソトキラヴァ（ソ連）

（以降、第17回まで、入賞者多数。詳細は割愛）

近年の動向

近年では、コンクールが政治的な影響を受けるなど、国際情勢を反映した動きも見られます。しかし、チャイコフスキー国際コンクールは、音楽の才能を世界に示す重要な舞台として、その歴史を刻み続けています。

外部リンク

* 公式サイト

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